伝説の興行師 康芳夫、今、オリバー君現象を振り返る

日本中にオリバー君ブームを巻き起こした張本人(元祖 GON! 2005.2.1 より)

日本中にオリバー君ブームを巻き起こした張本人(元祖 GON! 2005.2.1 より)

”伝説のプロモーター”という肩書きなしで語られることがない男は、会ってみると意外にもとっつきやすい人物だった。好々爺と言っても差し支えないくらいだ。待ち合わせ場所に指定された某シティーホテルのバーに行くと、康芳夫氏は奥のボックス席に座り、静かに水割りのグラスを傾けていた。肩まで伸ばした白髪、鋭い視線、確かに、外見はかなり変わっている。インタビューの申し込みをしたとき、まず「締め切りは?」と訊かれた。そのビジネスライクな口調が脳裏をよぎる。若き日の石原慎太郎を担ぎ出してネッシー探検隊を組織し、アリVS猪木戦を実現させた男。戦後最大の奇書『家畜人ヤプー』の出版を企画した男。話の中にも大物芸能人や業界人の名前がポンポン出てくる。伝説のプロモーターと呼ばれるには、それだけの理由があるのだ。

訊きたいことはいろいろあった。しかし何よりも知りたかったのは、なぜオリバーに興味を持ち、日本に連れて来ようと思ったのかということだ。インターネットも携帯電話もなかった時代の日本を興奮に包み、30年近くが経過した今でさえ人々の記憶に残る仕事は、何を発端として出発したのか。意外にも、すべての始まりはタブロイド紙の記事だったという。康氏は、瓢々とした口調で答える。「ロスで仕事をしていたとき、半人半猿がコンゴで見つかったっていう記事を読んだんだよ。こりゃあ面白いし、ありえる話だっていうんで、ピンと来たわけだ」

それは、プロモーターとしての直感だったのか?「いや、最初はテレビも含めて興行的なことは考えてなかった。日本に連れて来て、専門家に見せようと思ったんだ。べースにあったのは、オリバーという奇妙な生き物が何なのか知りたいという知的好奇心だったね。僕が見た記事では、コンゴの奥地では人と猿が共生していて、性的な交わりもあるみたいな事実も匂わされていた。まあ、オリバーという存在自体の面白さを直感したというわけだ」

かつてオリバーを飼っていたニューヨークの弁護士、マイケル・ミラー氏も同じ理由からオリバーを買い取ったと伝えられている。純粋な知的好奇心からオリバーの居場所を突き止め、当時飼われていたフロリダ州のパームビーチまで会いに行った康氏を見たとたん、オリバーは自分から抱きついてきたという。「僕も仕事柄いろいろ見てるから、大したことじゃ驚かない。多少の先入観があったことは事実たけど、なんともいえない感じなんだな。最初に会ったときは、人間とチンパンジーの混血だと本気で思ったね。とにかく普通のサルじゃないことは確かだ。二本足で立って歩いてたし・・・。それに、ほかのチンパンジーと一緒にしても、一定の距離を保ったままで、まったく動じない。不気味というよりはユーモラスという印象だな。それに、僕らがしている話の内容をわかってるんだな。頷いてる感じがするんだよ。少なくとも、僕自身は訓練されてああなるとは思えなかった。日テレもどこからか情報を入手して、動いてたらしいね」

日本に連れて来るにあたり、持ち主であるミラー氏からいろいろな注文をつけられたらしい。

弁護士だってこともあるんだが、うるせー野郎で、飛行機はファーストクラスにしろって言うんだ。日本の有名航空会社に掛け合ったんだが断られて、フライングタイガーという会社の飛行機を使った。貨物機だよ。で、乗せたはいいんだけど、出たり入ったりが続いて、なかなか出てこなくなっちゃったんだ。マイケルに訊いたら、出るのをいやがってる、なんて言っちゃってさ。日本テレビも最初から困ってたな」

・・・次号更新に続く