ダブル操作の証拠---肖像写真

滅亡のシナリオ:ダブル操作の証拠---肖像写真

プロデュース(康芳夫)
ノストラダムス(原作)
ヒトラー(演出)
川尻徹(著)精神科医 川尻徹

「でも、影武者がいたとしても、彼は殺されたわけでしょう?」

「そうだ。最終的には本人の替わりに死ぬことによって、ダブルの使命は全うされることになるわけだからな」

「でも、そうやって本人が脱出に成功したとしても、戦後四〇年もたった現在、本物のヒトラーだって九五歳になる勘定です。いずれにしても、この世にはいないでしょうね。・・・・・・ということは、ダブルの存在は、第二次世界大戦の謎として永遠に解けない---ということになるわけですね」

「いや、そうでもないさ」

川尻博士は自信たっぷりの表情で言ってのけた。

「中田君。写真があるよ、写真が。これまで発表されたヒトラーの写真を虱潰しに当たってみるのだ。もし、その中にダブルの写真があれば、本物---私は”実体”のヒトラーと呼ぶことにしているが---の写真と区別できるはずだ。そうやって区別できる写真が存在すること自体がそのまま、ヒトラーのダブル操作の証拠ということになる」

「できますか?そんなこと」

中田は半信半疑だった。

「じゃ、ちょっとおもしろい写真を見せてあげようか。ダブルが、絶対に区別できないわけではない、という実例がこれだよ」

博士は一枚の写真を彼に示した(写真③)。

「これは、ゲーリングですね」

「そうだ。空軍大臣で空軍最高司令官のヘルマン・ゲーリングだ。じゃ、これはどうだ?」

もう一枚の写真は、ゲーリングが子どもを抱いている写真だった(写真④)。

しかし、中田は首を傾げた。この写真のゲーリングは印象が違う。どう見ても男性とは思えない。

「・・・・・・このゲーリング、まるで女みたいですね」

その言葉を聞くと、博士は愉快そうに哄笑した。

「あはは。君にも分かるだろう?このゲーリングは本物じゃなくて、ダブルなんだ。しかも、姉のオルガ・ゲーリング夫人がダブルとして、空軍最高司令官のゲーリングになりすましていたんだ」

「えっ?実の姉が替え玉になっていたんですか?」

「ああ。ひじょうによく似た姉弟だったらしいから、それが可能だったのだろう。だが、子どもを抱いたことによって、女であることが表面に出てきたんだ。・・・・・・こうやって見ると、ゲーリングがいつもきらびやかに身を飾りたて、香水をプンプンさせていたという、まったく軍人らしくない態度の理由が理解できるじゃないか。実の姉と弟がしょっちゅう入れ替わっていたんだからね。

まぁ、こんな具合に、ナチスの幹部はみなそれぞれのダブルをおいていたわけだ。今なおシュパンダウ刑務所に収容されているルドルフ・ヘス(注・一九八七年、獄死)にしても、本人ならあるはずの傷がない。あれもダブルだということは歴然としているんだ」

博上はあっけにとられている中田の目の前で、本棚からスライド映写機を持ち出し、机の上にセットしだした。やがて暗くした院長室の壁に、拡大されたヒトラーの顔写真が投影された。自分の研究のため、いろいろな文献から写真を複写してスライドにし、拡大投影して表情を研究しているらしい。その真相追究にかける熱意がなみなみならぬものであることが、これでも分かる。

「では、私のやり方で見つけ出したヒトラーのダブルを、見せてあげよう」

・・・・・・・・・次号更新【医学的アプローチによる証明】に続く