康芳夫×谷川貞治 対談・・・4

康芳夫×谷川貞治 対談【月刊キング(2007年11月 NO.14 より)】

康芳夫×谷川貞治 対談【月刊キング(2007年11月 NO.14 より)】

ロマンを語りにくい時代 男はどう戦うべきか?

谷川 「今は、大手を振ってロマンを叫びにくい時代だと思うんです。たとえば格闘技にしても、観客はテクニックがどうこうとか、見方がマニアックにオタク化している。それはそれでビジネスになるけど、ダイナミックなものは成立しにくい。インターネットで成立しちゃう、というか。コミュニケーションの方法が、昔と比べると大きく変わってきてるんでしょうね」

康 「トリビアリズムの時代なんですよ。重箱の隅ばかりつついて、本質を見ようとしない。『本当にそれが面白いのか?』と聞きたくなる。もっと大切なものを楽しんだらいいのにね」

谷川 「『アリVS.猪木』戦は、試合内容の賛否両論なんかも含めて、世の中が本当に熱狂したんですよ。社会を手玉に取った快感は、どんなにキレイな女性と付き合うよりも気持ちよかったんじゃないですか?」

康 「人が動くというのは、やっぱり快感ですね。政治的なリーダーだとか、悪い例だけどヒットラーだって、そういう快感を求めていたんだろうから。ただ、やっぱり今の時代は人々の反応の仕方が変わってきてるのは確かですよ。最近『トランスフォーマー」という映画がヒットしたけど、世の中の動き方が変容したのを実感しましたね」

谷川 「だから、新しい何かが流行る余地は確実にあるってことですよね。あきらめる必要はまったくないと思います」

康 「ただ、サーキュレーションはものすごく短いですね。たとえばハンカチ王子にしても彼の本質とは関係なく一過性のブームになってしまっているから」

谷川 「僕なんて『アリVS.猪木』戦を30年以上も引きずってますから(笑)。それくらいインパクトの強いものを仕掛けたいですよ、本当に」

康 「昔は振り返らないことにしてるけど、そう言われると感慨深いね(笑)」

谷川 「先日、かつてロス五輪が開催された10万人も入る会場で興行をやったんですね。メインで戦うはずだったチェ・ホンマンが脳に腫瘍があるという理由で試合に出られなくなって・・・・・・燃えましたねえ。興業はトラブルが起こった方が興奮するのはどうしてですかね(笑)?」

康 「そうそう、何かに触発されて燃えるんだよ(笑)。火事場の馬鹿力ってやつで、自分なりの方法とエネルギーで解決する。解決した後には虚脱感があるんだけど、女を征服したとか小さい話じゃないレベルで面白い」

谷川 「たとえばマッチメイクがストレスなく決まるよりも、選手の首根っこを掴んでなんとか試合させたり、試合直前に怪我されたり、めちゃくちゃ苦労した方が『いい試合』になる確率が高いんですよね。トラブルが多いほど、成功も大きい」

康 「戦いを挑む相手が巨大だと、面白い。アミン大統領の興行は、交渉相手が『国家』だったから(
笑)。人間は本当に熱中すると、何も見えなくなるんですよ。隣で地雷が爆発しようが、人が殺されようが平気なんだ」

谷川 「『プロデューサーズ・ハイ』とでも呼べばいいですかね(笑)?」

康 「熱中していれば、たとえ無謀な話でも関係ない。成功が見えなくても、とにかくまず始めちゃうんですよ。そうすれば、解決していくべき課題も見えてくるし」

谷川 「飽きっぽいのもプロデューサーの条件かもしれませんね。たとえばオリバー君にせよ、ネッシーにせよ、ふり幅を持ちながら、新しく熱中するものを見つけて常に前に進む。言ってしまえば、過去の実績は関係なく、誰にでもチャンスがあるってことですよね」

康 「必要なのは『機略』と『度胸』。それさえあれば、いつだって誰だって飛び抜けることができるはずです」

・・・了