私の畜化願望・・・・・・(2)

『諸君!』昭和58年(1983年)2月号:「家畜人ヤプー」事件 第三弾!沼正三からの手紙

『諸君!』昭和58年(1983年)2月号:「家畜人ヤプー」事件 第三弾!沼正三からの手紙

沼正三の関心を示す次の如き書信もある。これには日付が明記されていないのだが、内容からして右と同じ頃のものと推察できる。

<私の畜化願望は、それ自身として相当進行していますから、兄と同程度には至らぬにせよ、一般のマゾヒストのレヴェルに比しては、ずっと強い関心を持っています。(ことにQ様のパステル画を原画で見たのは良い機縁でした。この点は兄に啓蒙されたといってよいので、深く感謝している次第です。)・・・・・・尤も憧憬している女性からの書信は、それのみで珍重に価します。私がもしアソ・カズコの手簡をもっていたら内容にかかわらず大切にするように。しかしそれはもはやマゾヒズム一般から離れたそのマゾヒスト個人のファン気質になってしまいます。私がアソ・カズコ崇拝を貴婦人崇拝にまで一般化するように、兄のイリイナ女史崇拝が猛獣使い一般にまでひろげられねばなりません>

文中のアソ・カズコというのは、おそらく一昔前、ファッション・モデルから女優へと転身した麻生和子のことであろう。沼は彼女を「崇拝」していたのである。

沼の関心事といえば、言葉の意味、あるいは用語法に対する飽くなき「こだわり方」に注目しなければならない。

例のQ女と、わざわざイタリア語を勉強してイタリア語で文通した沼は、やはり日付不明の手紙にこんなことを書いて寄越した。

<giubbia のことも判りました。貴下の第二信に giubbia とあったために生じた不審ですから、貴下のケアレスミスだったとなれば問題なし。 gubbia という語が私の字引に出ていれば、そもそも問題はなかったことでしたが、教示の労を乞い、ありがたく御礼申します>

この種の「こだわり方」は他にも枚挙にいとまがない。いや、私との文通に限らないようで、彼は、一面識もない作家・評論家の書いた文書に”誤り”を見つけるや、せっせと誤りを指摘する手紙を送りつける癖があるらしい。

・・・次号更新【『諸君!』昭和58年(1983年)2月号:「家畜人ヤプー」事件 第三弾!沼正三からの手紙:森下小太郎・・・連載37】に続く