康芳夫

モハメド・アリ興行ポスターの前で(1972年:ホテルニュージャパン内、小生オフィスで撮影)

アリを射程圏内に入れる

あなたがもし遠く離れたヨーロッパに住むまったく知らない人物に人から人への紹介を重ねて辿り着かないといけないとなったとすれば、はたして何人の人間がその間に入ることになるだろうか。数千、数万?そう思う人もけっこういるだろう。しかし、実際はたったの六人ほどで辿り着くのだという。

これは「六次の隔たり」というアメリカの心理学者、スタンレー・ミルグラムが発表した理論である。ミルグラムは実際にチェーンレターを使った実験で「六人で世界はつながる」ということを証明してみせた。

たとえばオバマ大統領に人から人への紹介を経てコンタクトしたいという日本の中学生がいたとする。彼がオバマ大統領に辿り着くには六人ばかりの人間が間にいれば可能になるということなのだ。

私は着実にアリへと駒を進めていったが、まさにアリへの接近はこのミルグラムの理論を地でいく感があった。

まず友人の紹介で華僑の大物ムスリムに近づき、さらにその紹介でマレーシアに住むイスラム教徒指導者に会いにいった。その指導者はアメリカのムスリムグループと深いネットワークを持っているという話だからだ。彼はアメリカのムスリムリーダーの一人に紹介状を書いてくれた。その紹介状を持ってアメリカに渡った私は、大物ムスレムを経由してアリのマネージャーに近づくことができた。アメリカの芸能やプロスポーツの世界ではマネージャーは絶大な権限を持っている。マネージングされる本人よりも大きな裁量を握るほどだ。

アリのマネージャー、ハーバード・モハメドは、マルコムXの師であり、ブラックムスリムの教祖であるイラジャ・モハメドの息子であり、ブラックムスリムの激しい内部闘争をかいくぐってきた実績を持つ。マネージャーとしてはひじょうにしたたかで抜け目がなかった。

・・・以上、虚人のすすめ―無秩序(カオス)を生き抜け (集英社新書)より抜粋