『血と薔薇』創刊号 Oct.1968No.1

『血と薔薇』
エロティシズムと残酷の綜合研究誌
澁澤龍彦 責任編集
創刊号 Oct.1968No.1

All Japanese are perverse

三島由紀夫

性愛における表象の優位はフェティシズムにつながるが、ほとんど男にしか見られぬこの perverse は、あらゆる perverse のうちでもっとも「文化的」なものであり、芸術や哲学や宗教に近接し、それらの象徴体系の隠れた基盤をなしている。表象固執と現実離脱の、これ以上みごとな結合な考へられぬであらう。何故なら、フェティシズムが表象固執によって果たす象徴機能は、次のやうなものだからである。すはなち、表象は個々の対象の個別的魅惑から離脱し、ある詩的共通項(物象あるひは観念)を足がかりにして普遍性に到達し、しかも形容時矛盾ともいふべき「フェティッシュな普遍性」というふ形態においてのみ源泉的な「肉の現実」の官能的魅惑をまざまざと現出せしめるのである。いはばフェティシズムは、冷たい抽象的普遍に熱烈な肉の味はいを添へるのだ。あるひは又、死んだ「物」の世界を、肉の香りを以て蘇らすのである。かくて、教会はキリストの体になり、聖餅はキリストの肉、葡萄酒はキリストの血になるであらう。

・・・次号更新【All Japanese are perverse(三島由紀夫)・・・連載9】に続く