『滅亡のシナリオ』:プロデュース(康芳夫)

プロデュース(康芳夫)
ノストラダムス(原作)
ヒトラー(演出)
川尻徹(著)精神科医 川尻徹

滅亡のシナリオ(8)

いまも着々と進む1999年への道

これが、”麻原オウム”幹部必読の教科書だ!

現代史の謎---戦勝国の没落と敗戦国の繁栄

---川尻徹博士は東京で生まれた。父は農林省の高級官僚で、少年時代は満州(現在は中国東北地方)の新京(しんきょう)で過ごし、終戦は父の郷里・徳島で迎えた。中学二年、一四歳の時である。

「そのとき私は『これからの日本は、世界に二度と迷惑をかけないよう、ひっそりとおとなしくし生きていくしかない』と思ったものだ。同時に、国民は敗者として悲惨な貧困生活を長いこと強(し)いられるだろうと覚悟したね。ところがどうだい?貧しい三等国家、敗戦国の日本は、みるみるうちに高度成長を遂げ、経済大国になり、世界中をまた騒がせるようになってしまったではないか・・・・・・」

急激な転換点は、博士が精神科医としてスタートを切った昭和三〇年代前半だった。世界中いたるところで戦争、内戦が起き、人々が飢餓(きが)、災害に苦しんでいるとき、日本だけが繁栄し続け、富を蓄積していったのだ。技術革新の嵐が吹き、モータリゼーションの波が打ち寄せ、国民は戦前とは比べものにならないほど豊かな生活を享受(きょうじゅ)できるようになった。

「まず不思議なのは、そこのところなんだ。ここで、第二次世界大戦の勝者と敗者を考えてみよう。戦勝国であるのに植民地を失った結果、大英帝国は没落し、産業も衰退して、いまや日本の自動車産業を招聘(しょうへい)するのに汲々(きゅうきゅう)としているありさまだ。また、日本の侵略から解放された中国や韓国、北朝鮮のほうが、日本より繁栄していいと思わないか?ところが、戦争が終わって間もないうちに、敗者たる日本や西ドイツのほうが急速に復興してしまった。いま、第二次世界大戦を知らない人が見たら、あの戦争の勝者は日本と西ドイツ、敗者はイギリスだと思うに違いない」

そう言われてみると、中田も同感である。いまの若い世代の中に、自分たちは戦争でさんざんに打ち負かされた敗者だった、という意識は希薄である。生まれてきた時からテレビがあり、道は自動車で埋まっていた。食料は豊かで、飢(う)えたことなど一度もない。失業率は先進国の中でも最低で、医療も充実していて、平均寿命はぬきんでて高い。こういう国がどうして敗戦国であるのか?高校時代から、その疑問は中田の胸中にもあった。

「こうして考えると、結果的には、第二次大戦はイギリスを弱体化させ、共産主義圏を拡大させた戦争だということになる。その一方でユダヤ人の独立国家イスラエルが出現し、日本と西ドイツは発展し、アメリカとソ連は軍拡競争のおかげで、いまや共倒れになりそうなまでに行き詰まっている。連合国の意図は明らかに裏切られてしまった。不思議だとは思わないかね」

その疑問と同時に、博士の心を捉(とら)えたのは、経済成長と並行して増加してきた精神神経症患者の群れである。臨床医として患者たちに接触しているうち、まず、「同じ病気でありながら、戦前とは形態が違う」ことに気がついた。鬱(うつ)病も、これまでの内因性鬱病とは違う、神経症性鬱病が増えてきた。また、内科を訪れる者の大多数が、自律神経の失調による悩みを訴えだした。これは戦前には見られなかった現象である。

さらに子どもたちの問題がある。問題行動児が急激に増え、精神科医はその対応に追われるようになったのだ。

・・・・・・・・・次号更新【企図(きと)されていた第二次世界大戦後の歴史】に続く

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