『滅亡のシナリオ』:プロデュース(康芳夫)

プロデュース(康芳夫)
ノストラダムス(原作)
ヒトラー(演出)
川尻徹(著)精神科医 川尻徹

滅亡のシナリオ(9)

いまも着々と進む1999年への道

これが、”麻原オウム”幹部必読の教科書だ!

企図(きと)されていた第二次世界大戦後の歴史

「なぜだ?」

川尻博士は自問し続けた。かくも豊かな国に生まれながら、父親は精神を蝕(むしまば)まれ、母親は息子を受験戦争の勝者にしようと狂奔(きょうほん)し、息子や娘はそれに反抗し、刹那(せつな)的な快楽に走る。それはどうしてなのか?
「特に、問題児の行動を考えているうち、ぼくは彼らの思考の中に”未来”という観念が欠如していることに気がついた。彼らには未来像がないんだよ。『末は博士か大臣か』と高きを望んだ昔の少年たちとまったく違う。将米の自分より今の自分が大事なのだ。今、バイクに乗りたい。今、遊びたい。今、お金がほしい---という刹那的思考しかないんだ。これはなぜなのか。ひょっとしたら、彼らは『おれたちに明日はない』と思っているのではないか・・・・・・?

さらに母親たちを考えてみよう。どうして日本の母親たちは、かくも激しい受験戦争の中に、自分たちの子どもを投げこむのか。それは『子どもをある種のエリートにしないかぎり未来はない』と考えているからではないか」

かくて川尻博士は、こういった社会全体を覆(おお)う神経症的症状の原因を探っていく。

「その心因動機とは予期不安---つまり、ハッキリとした形をもたない、漠然(ばくぜん)とした将来に対する不安なんだな。予期不安はふつう、男性より女性に、大人より子どもに多い。しかも恐ろしいことに、社会的な大変動の直前に多発することが知られている」

最近、お笑いタレントや女子大生が出演している刹那(せつな)的な番組に人気が集中するのは、その不安感をまぎらわすためである。早い話が、テレビは予期不安に悩む者の精神安定剤(トランキライザー)として役立っているというわけだ。世界大戦の直前、どこの国にもエロ・グロ・ナンセンスが風靡(ふうび)するのは歴史が証明している・・・・・・。中田は博士の言葉に背筋が寒くなる感じを覚えた。

「ということは、現代とは、先のことを考えるほど不安になる”未来恐怖症の時代”というわけですか?」

”一九九九年、七の月、恐怖の大王が降(くだ)る”という一節を思い浮かべた中田の問いに、川尻博士大きく頷(うなず)いた。

「そうだ。そういったことを考えているうちに、私は『こうなった陰には、何か外部からの力が働いているのではないか』と思うよになった。つまり、けっして偶然ではなく、何者かが意図的に日本をこうなるように誘導していったのではないかとね・・・・・・。そうすると第二次大戦後の世界の歴史も、なんとなく理解できそうな気がした・・・・・・。そこで、第二次世界大戦の意味を精神科医の立場から研究してみようと思い立ったのさ。それが三年前のことだ」

・・・・・・・・・次号更新【二◯世紀最大の謎---ヒトラーの不可解な戦略】に続く

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