石原慎太郎総隊長「ネッシー探検隊」

初めて話すけどスポンサー企業を紹介してくれたのは福田赳夫さんでした

虚業家一代 康芳夫(3):石原慎太郎総隊長「ネッシー探検隊」(日刊ゲンダイ、2014年(平成26年)2月14日より)

オリバー君来日、アリ対猪木戦、ノアの箱舟探索プロジェクト・・・・・・。日本中をアッと驚かせてきた康芳夫氏。

「すべては退屈しのぎ」とうそぶくが、現職の国会議員だった石原慎太郎が総隊長を務めた「ネッシー探検隊」はその最たるものだろう。

「石原さんとは俺が東大の学生だった頃からの知り合いなんだよ。彼が芥川賞をとったばかりの頃だ。五月祭という学園祭に石原慎太郎、岡本太郎、谷川俊太郎、武満徹を呼んで『新しい芸術の可能性』という座談会を企画したんだ。たいへん盛り上がったんだけど、ギャラを1人500円しか払わなかったら、ふざげるなと怒鳴られてね(笑い)。平謝りに謝って、それ以来の関係。作家の有吉佐和子と結婚する興行師の神彰を紹介してくれたのも石原さん。彼のおかげで興行の世界に入ったといっても過言ではないんだよ」

英国ネス湖の怪獣ネッシーを捕獲するため、探検隊が結成されたのは73年のこと。日本中が大騒ぎになったが、現地ロンドンの騒ぎはその比ではなかったという。

「ネス湖は英国人にとって神聖な場所で、ネッシーは神秘的な動物なんです。それを東洋人がカネにあかせて捕まえにきたというので現地メディアは猛バッシング。いわば、日本の古墳を外国人が暴きに来たようなものだからね。しかも、隊長が現職の国会議員。石原さんは何で非難されなくちゃいけないんだと憮然としてたけど、彼はバッシングされると余計に燃える男だから」

英国までの遠征費用は億単位とバカにならなかったが、意外な人物がスポンサーの紹介をしてくれたという。

「これは初めて話すけど当時は自民党の幹事長だった福田赳夫さんです。作家の川内康範さんの紹介でお会いしたら『ネッシーね。わかりました。応援しましょう』と言ってくれ、いろんな企業を紹介してくれたんです。なぜ肩入れしてくれたのかというと、福田さんは大蔵省に入省してすぐにロンドンの日本大使館に派遣されていたんです。ちょうどその頃に撮影されたのが有名なあのネッシーの写真。だからネッシーにはすごく思い入れがあったようで。とても恩があります。帰国後はお土産に現地の名産の綿羊の織物を送りました。そうそう、あの横井英樹も100万円くれた。『俺はただの金貸しじゃないよ。ロマンには金を出すんだよ』って。石原さんに話したら『そんな汚いカネはもらうべきじゃない』と言ってたけど遠慮なく頂いた(笑い)」

しかし、1年がかりの大プロジェクトもネッシーは見つからず・・・・・・。

「石原さんはその後、都知事選に出馬して落選。人生で初めての挫折を経験するんだど、落ちたは『ネッシーのせいだ』と言ってたね(笑い)。ちょっと前に久しぶりに銀座のライオンで会ったらまだ怒ってて『ネッシーはもういい。俺にとって鬼門だ』と。まぁ、悪気はないはど直情径行な性格だからね。基本的には政治家には向いてないと思うから、売れなくても作家に戻るべきでしょう。彼独自の世界があるんだから」

(つづく)