正統なる虚業家 康芳夫(1):奇術なようなビジネスを成功させた男

正統なる虚業家 康芳夫:実話 裏歴史 SPECIAL VOL.8(2011.12.05)より

正統なる虚業家 康芳夫:実話 裏歴史 SPECIAL VOL.8(2011.12.05)より

1977年、春、日本武道館。待望の初来日を果たしたKISSコンサート(ライブという呼び方は一般的ではなかった)の入場を待つ長い列の中に、中学生だった筆者もいた。ロゴ入りのチケットを握りしめ、5、6時聞は並んだろうか。ともかく、入場に随分時間がかかったという印象が強く残っている。コンサート自体は、もちろん、エキサイティングだった。いまとは比べものにならない、貧相な音響楽器だったと思うが、オープニングアクトのBOWWOW、そして、ジーン、ポール、エース、ピーター・・・オリジナルメンバーだったKISSの演奏、おなじみ火を噴くジーン・シモンズ。あっという間の、2時間弱は、ローティーンの筆者にとって、夢、いやイリュージョンそのものに思えた。

その1970年代、若者たちが、ロックミュージックに熱をあげていた季節、オトナたちは、ポップスが奏でる軽やかな「ショー」を愛でていた。そのなかでも、アメリカのカーペンターズを凌ぐ人気を誇っていたのが、イギリスのポップの帝王、トム・ジョーンズであった。

KISSから遡ること4年前の1973年、トム・ジョーンズは日本で公演を行った。若者たちがKISSのコンサートを熱烈に支持したように、彼のコンサートをオトナたちは心躍らせ、待ちわびた。そのトムのコンサートを仕切り、魅せてくれたのが、康芳夫氏(74)なのである。自らを”虚業家”と名乗り、ある種の人からは”呼び屋(プロモーター)”とも称される。彼が、手がけた数々のイリュージョンは、時に世の人を歓喜、驚愕させた。その裏には、奇術同様、観客からは伺い知れないドグマのような駆け引きが渦巻く。それはまさしく、シビアなビジネスそのものであった。

・・・次号更新に続く