クレイの詩

虚業家宣言:康芳夫

一九七一年三月八日、世界ボクシング史上、最大の興行、世紀の対決と言われたクレイ、フレーザー戦が行なわれた。プロモーターのジェリー・ペレンチオは各々に二百五十万ドルという多額のファイト・マネーを保証していた。なんと九億円である。私はそのスケールの大きさにドギモを抜かれっ放しだった。一人二百五十万ドルという金額はスポーツ史上、一日に支払われる額としては最高のものであった。

試合発表後、数時間にして切符は売り切れた。百五十ドルのリングサイドから売れた。ダフ屋が入り、その券が試合当日には千ドルにもなっていた。

試合前、クレイは例によって吹きまくっていた。

「もし、やつが俺を叩きのめすなら、俺はリングを這っていって、やつの足にキスしてやるよ」

「フレーザーには二つチャンスがある。薄いチャンス、それにゼロチャンスだ」

クレイが作った、一篇の詩を私も聞かされた。

ジョーは煙をたててやってくる
俺は冗談にまぎらさず
あいつを叩いて、突っつき回そう
あいつの煙に水をかけよう
こいつはショックで、あいつはビックリ
ジョー・フレーザーを引退させよう

こんなのもあった。

こんな偉大な夜があるもんか
アラビア、シリア、メッカ、パキスタン、エスタニア
ソ連でも、中国でも、ベトナムでも
おれの試合を見る
おれがやったのだ
人間を主張した徴兵忌避
崇高な信仰、そして能力
モハメド・アリこそ人類のチャンピオンだ
フットボールはエジプトじゃ見られない
アイスホッケーはインドじゃ見られない
だが、オレのファイトは赤い中国でも見てる
アラブもイスラエルもこの夜は停戦
これほど偉大な夜はない

正直言って、さほどの詩じゃないと思ったが、私はお世辞を言ってやった。

「大変、いい詩だ。ユーの詩集を日本で出版しないか」

クレイは顔をクシャクシャとして、照れたように笑っていた。

・・・・・・次号更新【クレイ敗る!】に続く

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『虚実皮膜の狭間=ネットの世界で「康芳夫」ノールール(Free!)』真の虚業家の使命は何よりも時代に風穴を開け、閉塞的状況を束の間でもひっくり返して見せることである。「国際暗黒プロデューサー」、「神をも呼ぶ男」、「虚業家」といった呼び名すら弄ぶ”怪人”『康芳夫』発行メールマガジン。・・・配信内容:『康芳夫の仕掛けごと(裏と表),他の追従を許さない社会時評、人生相談、人生論などを展開,そして・・・』・・・小生 ほえまくっているが狂犬ではないので御心配なく 。

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