三島の悲報はアリのジムで聞いた:康芳夫が語る夜の紳士録 II(2)

康芳夫が語る夜の紳士録:BUBKA時代(2007.vol.04)

康芳夫が語る夜の紳士録:BUBKA時代(2007.vol.04)

康 それで結局和解せずになったまま例の市ヶ谷の事件が起きちゃった。あの事件の時、僕はマイアミにいたんですよ。モハメド(・アリ)のジムに。でもね、マイアミヘラルドの記事を読んでもまったく実感が湧かない。だってこっちはぶっ倒れるくらい暑いマイアミでしょ。しかもモハメドが隣にいて、彼との契約交渉で神経集中してるし、それ以外の時は女といちゃついてる(笑)。そこにあんな記事を見せられても非常に現実感が湧かなかったですね。

---でしょうねぇ。ちなみに、アリはなんと言ってたんですか?

康 「バカなヤツだな」って一言、言ってましたね。まあ、それはモハメドに文句言ったってしょうがないよね。あまりにも唐突で、訳の分からない話だし。然し、その場の雰囲気はまったく奇妙なものだったね。

---奇妙な繋がりだったんですね、三島さんとは。

康 ただ、僕は彼のことを評価していましたよ。作家としては当然ですけど、筋を通すという部分でもね。というのも、『ヤプー』の出版に関連して、僕は右翼に襲われてるわけ。それでずいぶん話題になって、朝日新聞も大きく書いた。『週刊新潮』も4ページで書いたり、NHKも取材にきたりしてもう大事件ですよ。おかげで本も売れちゃってね(笑)。ただ、その流れで三島のもとにも取材がいったわけですよ。『ヤプー』は彼によって世に出たことになっていたから、当然といえば当然なんだけど、その時三島はね、「馬鹿な奴らだ、だから日本の右翼はダメなんだ」と、そこまでハッキリ言った。僕はね、三島を見直したね。普通はそういう場合逃げちゃいますよ。右翼はやっぱり恐いですから。実際、そのあと、彼のところにも随分脅迫電話いったみたいよ。だからね、三島はやっぱりなかなかしっかりしてるなとその時思ってね。

---ただ、右翼が来るのをわかってやってるっていうのは康さんも一緒なんですけど(笑)。

康 僕の場合は、右翼に襲われても「あれは康の仕掛けだ」と言われてしまうだけ(苦笑)。

---で、そんな経験をしたのに、創魂出版ではいろいろと物議を醸した『裁く』シリーズを出版するんですね。『松下幸之助を裁く』なんか好き放題書いてますよね。

康 あれを書いた人間はしっかりしてるんだよ。平沢(正夫)君っていって、当時、週刊ポストのアンカーマンみたいなことをやっててね。内容的にも一番しっかりしてますよ、あのシリーズの中で。「松下」で最大の問題は広告でしたね。電通がまず全部ボイコットしたんですよ。博報堂ももちろん、他の広告会社にも全部手を廻しちゃった。車内吊り広告もダメなの。その時僕は松下がいかに凄い力を持っているかと、改めて認識しましたよ。

---結局広告が一切できなかったんですね。

康 例外は『赤旗』ぐらいですよ。それでしょうがないから、僕は京都の南禅寺の近くの松下のコレ(愛人)の家の前に捨て看板をバーンと並べたんですよ。

---タチの悪いことをしますね(笑)。

康 それしかないんだもん、ホント。仕方なくですよ(苦笑)。で、家の前で様子を見てたんですけど、しばらくしたら何人かボディガードみたいなのがパーッと出てきてね、あっと言う間に片付けちゃうの。で、またやって。

---またやったんですか(笑)!

康 で、またすぐ片づけちゃってね。結局、単なる嫌がらせで終わっちゃった(笑)。

・・・次号更新に続く