ノストラダムスの予言詩に沿って展開された作戦

滅亡のシナリオ:ノストラダムスの予言詩に沿って展開された作戦

プロデュース(康芳夫)
ノストラダムス(原作)
ヒトラー(演出)
川尻徹(著)精神科医 川尻徹

「そこで、私はノストラダムスの予言と、ヒトラーの戦いを重ねあわせてみた。そうすると、こういう予言にぶつかった」

博士が示したのは、第九章八三番の詩だった。

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太陽が牡牛座の二〇番目に位置する時
大地は震え・満員の大きな劇場は崩壊し
空気、天、地は暗く濁り
信仰のない者は神や聖人の名を呼ぶだろう
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「太陽が牡牛座の二〇番目に位置する時というのは、占星術的には五月一〇日を示す。だから研究者たちは、この詩を字句どおり、ある年の五月の一〇日に大地震が発生して都市が崩壊する予言だと解釈している。しかし、ヒトラーが機甲師団をフランス、オランダ、ベルギーへ突入させたのが一九四〇年五月一◯日だという史実をふまえて、この詩を読んでみたらどうだろうか?

機甲師団が進撃し、その前を急降下爆撃機が爆弾を投下する。爆弾と砲撃、突進する戦車。大地は激しく震え、戦塵で太陽の光も薄れただろう。人々はあわてふためき、不信心者も『おお、神よ』と叫んだに違いない」

「すると、満員の大きな劇場というのは、比喩的な意味で、フランスなどの国を表わしているわけですか」

「そうだ。それまで各国の国民たちは、戦雲が拡大し、わが身に迫るのを、まるで他人事のように思って泰平の夢をむさぼっていた。歴史という偉大な劇を傍観していた者たちは、気がついたら、自分たちが舞台の中央にいて頭の上から爆撃や砲弾を浴びていたのだ。そう解釈すると予言の意味が理解できる」

中田は博士の明快な解釈に圧倒された。

「いままでにこの詩を、そう解釈した人はいないんですか」

「いない。誰もが”劇場”という詩句に惑わされているからだ。聖書の黙示と同様、ノストラダムスは隠喩(メタファー)を用いて、理解できる人にだけ予言を伝えようとしたためだ。それを、ヒトラーは正しく解釈したわけだ」

「え。そうすると博士は、ノストラダムスの予言が当たったのではなく、ヒトラーが、この詩を読んで一九四〇年五月一〇日に侵攻を開始したと言うんですか?」

「当然だろ」

川尻博士は悠然としたものだ。

「ゲッベルスが緒戦の勝利を、すぐノストラダムスの予言と結びつけて宣伝したというのは、彼もヒトラーも、すでにこれらの予言を知っていたということではないか。でなければ、わざわざ五月一〇日という日を選ぶ必然性がない。・・・・・・もっともノストラダムスは、ヒトラーが自分の予言をそのように利用することも知っていただろうがね」

・・・・・・・・・次号更新【しだいに浮かび上がる”第四帝国”建設のシナリオ】に続く