『家畜人ヤプー』:幻冬舎(アウトロー文庫)

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出版という虚業で時代を撃つ

私はかつてある一時期、呼び屋稼業のかたわら、出版プロデュースをしていたことがある。出版というメディアもある意味、虚業と言えるから、それも私にとっては虚人の振る舞いの一つなのである。

---中略---

それ以上の時間的スケールをもって大勢のファンに読み継がれているのが、戦後最大の奇書と呼ばれる『家畜人ヤプー』である。SMをテーマにした文学的純度の高い一種の冒険譚であり、そのストーリーの奇想天外ぶりと作者の教養的背景の高さには三島由紀夫が驚嘆し、「戦後最大の傑作」と惜しみない賞賛を贈った。国際的にも高い評価を受けており、翻訳がフランス、アメリヵ、台湾ですでに出版されていて、近くロシア語版も出る予定である。

この本は内容以外のところでも大きな話題を振りまいた。一つは沼正三という著者が覆面作家であったことだ。その正体をめぐっては三島由紀夫や澁澤龍彦といった説もあちこちで出回ったりした。また、発売早々に、民族的な問題に触れているということで事務所が右翼の襲撃を受けて警察沙汰になったことも大きな宣伝となった。そんなことから話題が話題を呼んで、本は二〇万部を超す一大ベストセラーになった。

・・・以上、虚人のすすめ―無秩序(カオス)を生き抜け (集英社新書)より抜粋