康芳夫

私の半生は客観的には絶えず断崖上にあるような状態なのだが

その昔、作家の開高健は「野原を断崖のように歩け」ということを本に書いていたが、仲のいいある作家とバーで飲んだとき、彼が

「康さんは、その逆だね、断崖を野原のように歩いてきた人だね」

と言ってきた。まったくその通りかもしれない。私の半生は客観的には絶えず断崖上にあるような状態なのだが、本人はいつも野原をピクニックしているようなうきうきとして楽しい気分でいたのだ。もっとも仮に野原を歩ける状態にあっても、私の性分は断崖を歩くことを選んでしまうかもしれないのだが。