『血と薔薇』
エロティシズムと残酷の綜合研究誌
澁澤龍彦 責任編集
創刊号 Oct.1968No.1
All Japanese are perverse
三島由紀夫
ある若いアメリカ人の作家で、ロンドンに住んでゐた男がゐたが、小説家としては必ずしも巧くないが、座談の光彩陸離たること、私のあらゆる外国人の友人のなかでー番である。すでにニ度離婚して、三度結婚、それぞれの前妻に四、五人の子供を押しつけて、又自由の世界へ船出する生活の天才であるが、まあ、そんなことはどうでもよろしい。
私がたまたまロンドンのコヴェン卜・ガーデンで、リヒアル卜・シュトラウス
のオペラ「エレクトラ」を見た話をして、
「実にすばらしかった」
と云ふのを、聞き咎めた彼が、
「何がすばらしかった?」
ときく。
「何が、って、音楽がさ」
「あのR・シュトラウスの音楽がかい」
「さうさ」
「君はあんなものが好きなのかい」
「ああ、好きさ。日本にはR・シュトラウスのフアンは沢山ゐる」
「Oh! All Japanese are perverse!」
とそのとき彼が言ったのである。
・・・次号更新【All Japanese are perverse(三島由紀夫)・・・連載2】に続く