罰あたりパラダイス:福田和也(文)・・・1

SPA!1998年2月18日号より

SPA!1998年2月18日号より

豪奢な魑魅魍魎を招く夜。遊び続けることの困難を想いつつ、遊ぶ愉しさよ

金融不況の行く末や文芸批評の低迷などに胸痛める阿呆らしくなり、私淑する康芳夫大人と、気鋭の超小説家・町田康氏をお誘いして、リムジンでドライブ。魔的な洞察と天使の優しさが場に溢れ出し、一瞬の安らぎに憩う。

「何だ、福田クン、言ってくれれば、僕のリムジンもって来たのに」

と、日本で一番リムジンの似合う男、康さんが言った。

「あ、やっぱりさすがですね、康さんは、リムジンお持ちなんですね」

「いや、僕のじゃないけどね。ウン。ちょっとね、都合が悪くなって海外に行ってる親玉がいてね、でもったいないから僕が使ってるんだ」

「それって、許永中ですか」

「いやいや、彼じゃない。ウン、許クンも、外国で元気にしているけどね」

今日は、久しぶりに、しっかりメシを食い、酒を呑もうというので、康芳夫さんと町田康さんをお誘いした。「市民」だの、「文化」だの、「健康」だのといった言葉とは無縁の、宴である。というような訳で、オレはリンカーンのリムジンを借りて、お二人を迎えに行ったのだ。

「ウン、リンカーンもいいけどね、やっぱり、僕のメルセデスのリムジンが一番だね」。三人で乗り込んでみた雰囲気のこれ以上はないくらい濃い、PPMでは測定できない濃度に、なぜか魑魅魍魎という漢字が浮かんだ。車内の空気の密度に比べれば、車窓の東京の風景など、書き割りも同然である。

・・・次号更新に続く