「ノアの方舟」国際調査委員会に参加のため来日した宇宙飛行士:ジェームズ・アーウィンさん:朝日新聞 朝刊(1987年1月27日 火曜日)
「日本の学者、アメリカなどが人種や宗教を超えて人類の創世記(ノアの方舟=はこぶね)を探ろうとしていのは、素晴らしいことだ」と感激するが、いまの世界を見る目は厳しい。「私たち人類は最近、ごうまんになっていないか。もっと自分の弱さを知るべきだ」とスペースャトル爆発、チェルノブイリ事故などの悲劇を指摘する。
月面を実際に踏んだ数少ない宇宙飛行士の一人がこう語ると迫力はある。
一九三〇年、米ピッツバーグ生まれ。アナポリス海軍兵学校卒。テストパイロットで活躍後、ミシガン大で航空工学を専攻。56歳。
アポロ15号(七一年)で月に着陸した時、「小さな球体の地球を見て、人間のもろさを知った」として帰還後、キリスト教伝道師に。月面で見つけたキラキラ光る石を「創世記の岩」として地球に持ち帰ったが、「地球にも創世記の岩があるはず」とトルコ東端のアララト山(五、一六五メートル)を中心に「ノアの方舟」探しをこれまでに六回、現地で行った。うち五回は登山に参加、墜落事故で負傷したこともある。
一方、日本でも昨年、「ノアの方舟」を探索しようというバイブルランド国際調査委員会(康芳夫・代表)が作られた。聖書考古学の立場から、トルコではなくシリア・イラク国境を中心に捜索しようとするもの。これは創世記よも以前に粘土板に書かれた「ギルガメシュ叙事詩」(一八七二年発見、大英博物館所蔵)を根拠にしているが、これにこの人も関心を深め、情報交換のため来日した。
戦火のイラクへすぐ入国できるかなどの問題もあるが、米航空宇宙局(NASA)の衛星写真分析や、コンピューター接続の地下探査レーダーを駆使する日本側の計画に目を輝かせる。
「現代は、困難な時代だが、国際協力で大洪水の史実はきっと確認されよう。神は特別の時期を指定して自らの存在を知らせようとするが、今がその時だ」と語気を強めた。