大宅壮一はマスコミ界の天皇であり、癌でもあった:康芳夫が語る夜の紳士録 II(4)

康芳夫が語る夜の紳士録:BUBKA時代(2007.vol.04)

康芳夫が語る夜の紳士録:BUBKA時代(2007.vol.04)

康 もう一つ残念だったのが、『大宅壮一を裁く』が出せなかったこと。あれはね、丸山真男さんって戦後を代表するいわゆる進歩的文化人の弟で、丸山邦男さんが書くことになってた。両者とも今や故人になってしまったが、東大教授だった兄と違い弟は一匹狼の反骨精神にあふれた人だった。原稿料も前渡ししてたんだけど、1行も書かないで亡くなっちゃった(笑)。『大宅壮一を裁く』は出たら面白かったんだ。なにしろ彼の全盛時代だから。当時彼を叩くなんて言うのは誰もできない。世に云う大宅マスコミ塾の大ボス。今大活躍している大宅映子のおやじだ。あらゆるマスコミに彼の子分がいるわけだから。右から左までいろいろいた。例えば藤島宇太から草柳大蔵まで。そこが大宅壮一の凄いところ。異色なところでは藤島泰輔ってわかる?ジャニーズ事務所代表のメリー(喜多川)っているじゃない。もう亡くなったけど彼女の御主人だった男、彼は僕とも親しかったが、ジャニーズ事務所副社長の父親です。今の天皇の学習院の同級生だよ。代表的な作品に『孤独の人』ってあって、当時の皇太子を銀座へ連れ出したことなんかを小説に書いて一躍売り出した事があるの。そういう、そうそうたる連中が大宅の下にいたから、大宅壮一を叩くっていうのは一番難しいの。

---でも、なぜ叩かないといけないんですか?

康 基本的にイカサマだと思ったから。彼はマスコミ界の天皇であり、癌でもあった。その後遺症は今でもマスコミ界に深く根付いている。この「裁くシリーズ」は、そういう権威を裁くってことだから、マスコミ界の一番の癌は叩かないとね。だから、これはどうしてもやりたかった。

---そうだったんですか、勉強不足でした。ただ、このシリーズを読んでいてつくづく思ったのが、面白い本を作るには、康さんのようにガンガン焚き付けるプロデューサーの存在が重要なんだと。

康 そうですね。今だって出版界っていうのは大きな権力に対峙するものであるべきですよ。ただ、いまはいろんな問題があって、特に一番難しいのが電通の問題。

---あそこが癌だっていうのはよく聞きます、功罪あるんでしょうけれど。

康 いま電通に関する色んな本が出てるけど、実際の内容は、半分以上消されてしまうんだよ。有名人や権力者はたとえあとで裁判になったとしても叩くことはできますよ。けれども、電通は叩くこともできないわけだから。その前に全部削られちゃうというね。テレビにしても、いま何が怖いのかと言ったら視聴率なんですよ。細木のカルトババアにしてもスピリチュアルの2人組にしても、すごい視聴率でしょう。別にあいつらのバックにヤクザがいるとかね、仮にそうだとしてもそれは全然問題ない。問題は、カルトババアやスピリチュアルの2人組がいい加減な事を言ってるのに支える視聴者がいるってこと。それが僕は一番の問題だと思うんだけどなあ。そう思いません?

---いや、そうなんですけどぉ。

康 そうなんですけどって、いや、そうですよ。僕はそう思いますよ。視聴者がいなければ、たちまち消えちゃうんだから。だから、僕はこの間、TBSの『R30』に出て、スピリチュアルの2人組に「霊を入れてあげるから番組に出せ」と言ったんですね。

---え、国分太一君の前でですか!?

康 そうそう。彼があの番組の司会もしているのを忘れちゃっててね、国分君から「それはほとんど冗談ですよね」って軽く言われた(笑)。

---やっぱり康さんはマスコミに絶対必要な存在ですね(笑)。また「裁くシリーズ」もやって欲しいです!

康 それはいろんな人が言ってきますよ。だから、いまどういう人をどういう風に料理するかとか、調整してますから待っていてください。フフフ。

・・・了