みごとな新世界 田村隆一
夜と霧の時代はとっくにおわった
強制収容所の悪夢も
色彩つきの神話となってしまった
孤独なサディストたちの
「独裁」と「毒薬」も
いまでは流行遅れ
鞭打つもの
鞭打たれるもの
という古典的な絵柄も
ピンク映画でしか見られない
だから
奴隷の歓びはなくなってしまった
ピラミッドも逆三角形だ
集団が個人を支配する
「独裁」が「管理」にかわった
「子宮」が「直腸」に
われらは両性具有
被支配と不服従がわれらの原理
われらの王は記号と反記号
われら奴隷の感覚もいちじるしく抽象的だ
透明な鞭は自動的に量産されるだろう
われらの皮膚は傷つけられるだろう
いかなる苦痛もなしに
衛生的に