みごとな新世界 田村隆一

『血と薔薇』1969.No4 エロティシズムと衝撃の綜合研究誌 より

『血と薔薇』1969.No4 エロティシズムと衝撃の綜合研究誌 より

夜と霧の時代はとっくにおわった

強制収容所の悪夢も

色彩つきの神話となってしまった

孤独なサディストたちの

「独裁」と「毒薬」も

いまでは流行遅れ

鞭打つもの

鞭打たれるもの

という古典的な絵柄も

ピンク映画でしか見られない

だから

奴隷の歓びはなくなってしまった

ピラミッドも逆三角形だ

集団が個人を支配する

「独裁」が「管理」にかわった

「子宮」が「直腸」に

われらは両性具有

被支配と不服従がわれらの原理

われらの王は記号と反記号

われら奴隷の感覚もいちじるしく抽象的だ

透明な鞭は自動的に量産されるだろう

われらの皮膚は傷つけられるだろう

いかなる苦痛もなしに

衛生的に