へこたれない精神を持った二人のミューズ
仕事や人生には絶え間なく難事が押し寄せてくるが、虚人の仕事というのは最初から難事そのものを対象にしているようなところがある。だからそうそうのことでへこたれてしまうようでは話にならないのだ。
「へこたれない精神」という言葉を聞くと、私はただちにある二人の女性を思い浮かべる。
一人は二〇世紀を代表するドイツ人哲学者マルティン・ハイデッガーの恋人であった政治思想家のハンナ・アーレント。もう一人はヒトラーの愛人と噂された女優で映像作家のレニ・リーフェンシュタールである。
ハイデッガーはナチス時代にナチ党員となり、そのため戦後、長きにわたって一切の公職を追われた。ハンナ・アーレントはユダヤ人の家庭に生まれたが、そんなハイデッガーとある時期まで恋人として付き合っていたのである。戦争をはさんで離れ離れになったものの、二人は戦後再会を果たす。ハンナ・アーレントは政治思想家としてユダヤ人としてナチスを激しく批判していたものの、再会を果たしたハイデッガーに対して不変の愛を誓い貫き通したのである。ユダヤ人社会をはじめ、世界中のマスコミ、知識人から強い非難の声が上がったものの、公と私を峻別し、愛と思想への信念を曲げることのなかったハンナ・アーレントの激しさと強さは実に見事としか言いようがない。
ヒトラーの愛人と噂されたレニ・リーフェンシュタールは、ベルリンオリンピックをテーマに「意志の勝利」「オリンピア」というナチスのプロパガンダとなるドキュメント映画を二本制作した。戦後は当然ながら激しい批判を浴び、独房と精神病院で生活を送るなどして長い間干された。
しかし、その後、アフリカのヌバ族と共に生活をしながら撮り続けた大作写真集『ヌバ』を世に送り、芸術作品としての高い評価を得た。
・・・以上、虚人のすすめ―無秩序(カオス)を生き抜け (集英社新書)より抜粋
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