全体小説家宮内勝典大兄に告ぐ
前略 貴兄の貴重な著作2冊贈呈頂き感謝します。
久しぶりに全体小説の匂いを充分に堪能させてもらいました。
小生が愛読した野間宏、武田泰淳、等の諸作品を彷彿させる仕上がりです。
両作とも素晴らしい出来上がりですが、
特にインドの国父ガンジーの生涯を描いた『魔王の愛』は凄い出来上がりです。
いわゆるアジア的停滞の本質、その中核をなすインド的停滞の象徴そのものである魔王ガンジーの全てをここまで描ききれば成功と云えるでしょう。ガンジー伝としては極めて上質な出来上がりです。
小生としてはこの書にどうして野間文学賞が所与されないのか極めて不思議でなりません。
『永遠の道は曲りくねる』は辺境或いは日本国と接する異境?の実質をあますことなくえぐり出してこれまた凄い仕上がりです。
本著に登場するかつての全学連委員長 唐牛君、書記長 島君、彼等まったく同期なので久しぶりに今は亡き友の亡霊に幻惑されました。
小生には辺境(異境)の命運が一体どうゆうことに相成るのか想像もつきませんが、オキナワが今直面している局面をこれだけ総体的にえぐり出した小説は他に思い出せません。
最後に蛇足ながら今から三、四十年前小生が滞在していたNYコロンビア大学で教えていたかのサイード教授の執務室に友人の紹介で押しかけて彼とやり合った白熱?の大議論の内容を付け加えます。
改めて言及するまでもなく彼の著作『オリエンタリズム』は世界的名(迷)?著であることは間違いないのですが一つ極めて重要だと小生には思われるところは
欧米帝国主義の暴圧の無残な結果を余すこと無くえぐり出したところは流石サイードですが一方でイスラム的停滞更にはアジア的停滞その底辺であえぎもがき続ける善良なる?一般民衆に関して寛容すぎるというか眼をつぶりすぎているというところです。
このことを指摘したところサイードは烈火の如く怒り出し、そのまま物別れになった苦々しい記憶が甦って来ます。
コロナウイルス災難のまっただなかにありますが、機会を見附て一杯行きましょう。
草々 康芳夫