ヨーコオノ

康芳夫

ヨーコオノがNYで病院にかつぎこまれたという情報が、世界中をかけめぐった。

彼女が亡き夫レノンと頻繁にくりかえした例のパフォーマンス「PEACE & LOVE」を夫亡き後もずっと継続している訳だが、

このパフォーマンスをある種のスキャンダラスアートパフォーマンスととるか、純粋かつ前衛的なワークととるか?その両者の混然一体とみなすか、僕には判断しかねる。

横尾忠則君が熱心なサポーターらしいが、彼の口から納得のいく然るべき評価をきいたことがないのだが。

思えば五十数年前、草月会館で彼女の最初の夫で現代音楽作曲家の一柳君ともども彼女がパフォーマンスアートのはしりにのめりこんでいた頃、何回か一緒になって、アートディベイトをくりかえしたお覚えがある。

その後、しばらくして、僕がムハマッドアリ日本招聘の準備でNYに滞在していた頃、彼等はベトナム反戦でFBIに追われウェストビレッヂの隠れ家にひそんでいた。そこを横尾忠則君と一緒にたずねた。

レノンは初対面だったが、非常に印象的だったのは彼があれだけの世界的名声とありあまる富を有していたにもかかわらず、きわめて、けんきょだったことだ。そして彼の書架のどまん中エルヴィス関連の本が数十冊おかれていた事も忘れがたい。

僕は小泉元総理よりも本格的なエルヴィスフリークだったので、とても親近感をいだき、エルヴィスについていろいろ話し合った。

ちなみに、ビートルズの音楽活動の偉大さに関してはそれなりに認識しているつもりだが、僕は基本的にはローリングストーンズ、ミックジャガー派である。

レノンといろいろ話し合って、もう四十数年経過しているのでよく思い出せない部分もあるが、たまたま必要があって、ハンナアレントの「革命について」を今再読している最中なので、ハンナアレントがらみで思い出したことがある。

レノンはいろいろな話の最中夫婦の関係は「PEACE & LOVE」がベースで例え政治的、宗教的信条がことなっていてもなんら問題にならないと云った。

どうゆう話の文脈でそうゆう話になったか思い出せないが、彼等はその頃、ベトナム反戦運動にはまっていたので、二人の間に政治的信条のへだたりがあるとは思えなかったが、当時関係筋でひそかに話題になっていたのが、ヨーコが、日本のある新興宗教の熱心な信者だという噂。今も彼女がその宗教の信者なのか、もともと根拠のない話なのか判然としない。

云ってみればどうでもいい話だ。

つけ加えるとレノンはカソリック信者だったはずだ。

ただ、先にもちょっとふれたがレノンとの会話の最中に彼がどうして夫婦間の政治的、宗教的信条の問題にふれたのかそこのところがどうしても思い出せないのだ。ただ先述のとおり、ハンナアレント「革命について」を読みながら彼女の恋人で二十世紀最大の哲学者、思想家と称され、一方でヒットラーナチズムの熱烈な信奉者であった、ハイデッカーとの関係を想いだした。

ハンナアレントは戦後ファシスト、ハイデッカーとの恋愛関係について、しつこく関係者から詰問されたが、例え夫婦間、恋人同志でも、先ずLOVEがベースで、政治的、宗教的信条のちがいはまったく問題にならないと昂然と云いはなった。

このユダヤ系にして、世界的女流思想家の堂々たる対応は僕の脳裏にこびりついてはなれない。

ヨーコオノとはいろいろといきちがいがあり、それ以降会っていない。

康芳夫