正統なる虚業家 康芳夫(5):伝説の一戦、その影にうごめく仕手師たち
「(アリが信奉していた)モスレム(※白人はブラック・モスレムと呼んだ)に入信したのは、彼らに近づくための手段のひとつではあった。便宜的というのは、微妙なんだけど、もし便宜的と言われるんだったら、そう言われても仕方ないところある。でも、僕は実際にモスレムを勉強して面白いこともあった。回教徒のメンタリティがどういうものなのか理解できたし。ただ、おかげでマネージャーのハーバード・モハメッドにピタッと近づけた。それは戦略的には効果的だったワケですよ。ともかく、アリを呼ぶ行為というのは、カラダにひしひし感じるリスクがあった。それをハーバード・モハメッドが守ってくれたのは事実です。実際、彼らには屈強な護衛もいたしね。それがなかったら・・・」
そんな執念のネゴシエートの結実が、72年、4月のアリ vs フォスター戦であったのだ。この話には、もうひとつ、面白いエピソードがある。
「例えば、あのマイク・タイソン戦とかは、電通がパッと判を押して興業が出来る。電通が後ろにいるというのは、銀行が後ろにいるのと一緒。でも当時の僕は資金ゼロ。ニューヨークで記者会見すら開けない。そこで、スポンサーをひっかけなければいけない。だから、その時はべニハナ(アメリカで大成功した鉄板焼きチェーン)のロッキー青木(故人)を説き伏せて立て替えさせた。パブリシティマネージャーとして参加させる条件でね。2万ドルを出させたかな。当時はとても大きな金で助かりました。もう、アクロバット、サーカスですよ」
康氏とアリのからみで言えば、もうひとつ、忘れられないのがアリ vs 猪木戦だ。陰の立て役者などとも言われているが・・・
「猪木君の問題はね。基本的に彼がお金を作ってね。つまり、彼がプロモーター兼主役なんですよ。僕はまあコーディネーター、相談役みたいな感じで。叢初は---これは僕も錯覚したんだけど、アリサイドは、マネージャー、弁護士もジョークだろうと思ったらしい。『あいつら本気で言ってるのか』と。プロレスってね、向こうでは、いまでもそうなんだけど、ショーなんですよ。まともにとりあうワケがない。結果、『ミスター康、フィックス---日本で言うヤラセですね---ならいいよ』ということになった。お金になりますからね。彼らもモスリムの関係などで、お金が必要なこともあった」
が、”主役”である猪木の意志は別のところにあった。
・・・次号更新に続く