「猪木対アミン」は実現せず(1)
そして、それからひと月も経たない内に、康芳夫は、オリバーというどこから見ても猿としか見えないものを、猿と人間の間の、それも人間に近い人類猿だと、日本テレビに四億円という大金で、まんまと売り込みました。
これはもうエスキモーに冷蔵庫、羽賀研二にダッチワイフを売るようなことですが、康芳夫は、見事にこの類人猿ではなく人類猿を、大金で日本テレビに売り付けたのです。
日本の民放テレビ局が、視聴者を馬鹿にしていて、話題になって視聴率が取れる物なら、どんなに下らないニセモノでも、喜んで買って大金を払うことを、康芳夫は知っていました。
人類猿なんて、せいぜいが二〜三万円しかしないものに、四億円(今から二十五年も前の四億円です)も払うのは、世界中で日本の民放テレビ局しかありません。
オリバーが日本に着くと、宣伝が上手な康芳夫は、巧みに煽り立てたので、たちまち大騒ぎになって、
「オリバーに抱かれたい。オリバーの子供が産みたい」
なんて、愚かな目をトロンとさせるバカ娘まで現れました。
こんな最低な女も、実は民放テレビが造ったのです。
ハッタリと宣伝の達人、康芳夫は、オリバーを帝国ホテルかホテル・オークラに泊めようと思ったのですが、格式のあるホテルは日本テレビではありません。
「ウチは人間を泊めるところで、人類猿は泊めない」
と、キッパリと断わりました。
そして最後に、誰か人間が一緒に泊るのなら・・・・・・と、いう条件で、京王プラザホテルが引き受けたのです。
日本テレビの若いディレクターが、命令なので仕方なく、ツインベッドの部屋でオリバーと寝ました。
二十五年も経った今では民放テレビ局の社長に納まっているそのディレクターは、翌朝スタッフが行くと、
「こいつは正真正銘のエテ公です。人間でもなければ人類猿でもありはしません。康さんも会社も非道い。こいつはただの猿です」
誰かが気の毒に思ったのか、
「雌だったのかい。それとも・・・・・・」
と、訊いてやったら、怒ったそのディレクターは、口から泡を噴いて、その場で失神してしまったというのです。
・・・次号更新に続く