「家畜人ヤプー」出版記念パーティ

衝撃の「家畜人ヤプー」出版記念パーティ

「家畜人ヤプー」出版記念パーティは、銀座の高級クラブ「レッドミナー」という店で開かれた。この店は、東声会の町井久之が経営する店であった。パーティの演出は、康芳夫が依頼し、当時、寺山修司が率いる天井桟敷の演出家であった萩原朔美である。

『平凡パンチ』などのマスコミが話題にしたのは、いうまでもない。『週刊プレイボーイ』は、この出版記念パーティのために、一般市民のマゾの男性の参加も呼びかけていた。萩原朔美演出のその会場では、女主人(ドミナ)役の半裸の女性が、マゾヒストに扮した天井桟敷の役者や『週刊プレイボーイ』で応募してきた男を半裸にして、鞭で叩いていた。今では、こうした光景は知られてはいるが、当時は、マニアしか知らない世界であった。暗黒の世界だったのだ。そして、当然にも、というべきか暗黒舞踏の土方巽の門下、芦川羊子も参加していた。まだ、世界の、暗黒舞踏として知られる以前の話だ。寺山修司と土方巽は、友人として交流があったところからの参加だ。

圧巻は、女主人の小水をマゾヒストの男が飲み干すというものである。SMが市民権を得てしまった今は、そういうこともあると知られている。しかし、当時とすれば、考えられない世界だった。ヘンタイの極北とでもいおうか。

そして、すんなりとは、いかなかったのだ。理由は、ヘンタイだからではない。プロの女性が、マスコミの多さに驚いて会場から姿を消してしまったからである。すなわち、闇のマニアの世界が白日のもとにさらされるわけで、隠して働いてる人が、バレるかもしれないからだ。萩原朔美の「沼正三のプロペラ航空機」によれば、困った演出家の萩原朔美の頼みをきいた土方巽が、芦川羊子にそれをやるように命じたとある。

萩原朔美は書く。

〈「芦川やってやれ」とひとこと言った。私は、えっと思った。こういう時に、舞台人の度量が現れる。瞬時の決断と諦念の潔さが噴出する。暗黒舞踏派の師弟関係の濃さである。〉(萩原朔美「沼正三のプロペラ航空機」)

会場に沼正三がいた。萩原朔美は、小水を飲む男性を探した。応募してきた大学生がそれに応じたとしている。その萩原氏の文章によれば、パンツ一つになった男性に便器の型の立体覆面をかぶせたとある。作製したのは、辻村ジュサブロー。小水ショウの瞬間、カメラマンが殺到し、フラッシュが嵐のように点滅した。

芦川羊子は、小水を出し、男性はそれを飲み干した。〈控え室に引き上げてきた彼女はもう憑き物が落ちたようになって含羞と疲労の表情を浮かべていた。萩原朔美は、前述の文章でそう書く。

このパーティのことは、多くのマスコミに報じられたのだが、それがいけなかった。全裸の男性の写真が掲載されたからである。「家畜人ヤプー」の発行人矢牧一宏と康芳夫は、警察に、午前3時までこってりとしぼられた。

・・・次号更新【連載「沼正三」をめぐる謎 高取英】に続く

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