ニッポン最後の怪人・康芳夫

百田尚樹大兄に告ぐ

前略

貴兄の新著『地上最強の男:世界ヘビー級チャンピオン列伝(新潮社)』を通読させて頂きました。これに関する読後感は後程詳述します。

だいぶ以前貴兄の特攻隊員をテーマとしたベストセラー小説を読んで数々の疑問を感じWebメディアでその一部を公開しましたが遂に貴兄から御返信をいただけなかったのは返す返すも残念でなりません。

小生の疑問のポイントは特攻隊員達とアラブ諸派のテロリストに共通する精神構造に関して一体全体どうゆう相違があるのかという点につきます。

小生の単純な発想では特攻隊リーダーにもアラブ諸派リーダーにも腹黒い野望を抱く連中が多く存在したのでしょうが、基本的にはそれぞれの属する国家に対し忠誠心を抱いていたのは間違い無いでしょう。それに対応する特攻隊員、テロリストもまったく同じ心情の持主ではなかったのか?現段階で特攻隊員とアラブ諸派テロリスト及び背後関係をあたかも同一視するかのごとき小生の考え方が激しい議論の対象となることは充分承知の上です。この点に関する論議には小生いつでも受けて立つ用意があります。なお小生アラブテロリスト達の背後関係に関しては数々の重大な疑問を抱いているのでその点に関し改めて述べるまでもありません。

ところで貴兄の最新著作『地上最強の男:世界ヘビー級チャンピオン列伝(新潮社)』は歴代のへビー級ボクシングチャンピオン達に関して詳述したもので大変な力作であることは改めて強調する必要はないでしょう。

特にムハマッドアリに関する部分は詳細を極めて一種異様な追力が感じられ貴兄が彼の熱烈なファンであることが良くわかり、改めて感銘を受けた次第です。

想いおこせば小生の青春の一切をムハマッドアリ日本招聘に賭け今を去る約五十年前幾多の多大な困難を乗り越えて極東初の日本招聘を実現した時の感慨が万感極まる想いで湧き上がってきます。

あの頃、貴兄は小生の推定ではハイスクールの学生だったのですね。

この約四年後に例のアントニオ猪木 VS アリ 戦が興行された訳ですがこれは基本的には猪木君の自作自演であり、ただ弁護士・マネジャーは当然同一人物なので種々のコーディネーションには協力しました。

結果的には世界一の凡戦等、その他色々の悪口を書かれましたが猪木君が当時のスポーツ界において邪道視されていたプロレスの社会的地位を高めるべく必死の想いで闘ったことは紛れもない事実です。

繰り返す事になりますが貴兄の著作特にその中でムハマッドアリに関する記述は小生と彼の抜き差しならぬ関係もさることながら異様な感銘を小生に与えました。その最大の理由は貴兄と彼の世界観が恐らく大きく異なっているにも係わらず、それはそれとして彼の偉大さに関して貴兄が極めてストレートな対応をしていることです。

ここで話しは大分それるかも知れませんが代表的文芸評論家とされるかの江藤淳に関して小生が根本的不信感を抱いている事があります。それは他でもなく一方で日本の文芸小説家を代表すると評価されるかの中野重治に関する件です。彼が戦前いわゆる「アカの政治運動家」であった頃、日本政府が今は亡き昭和天皇御即位に関して彼の運動仲間である朝鮮人活動家達を朝鮮に移送するに際して品川駅頭で強制送還される同志を見送るべく彼が詠んだ痛恨の惜別歌に関してです。

江藤淳はその惜別歌を読んでその胸をえぐる凄さ素晴らしさに滂沱の涙を流しましたがふと我に返って中野重治が紛れもなく「アカの運動家」であることに改めて気づき滂沱の涙が止まるというあたりです。

中野重治がアカであろうがクロであろうが「いいものはいいのだ」とどうして率直に感じることが江藤淳には出来ないのか。小生、不思議でなりません。これが彼に対し根本的不信感を抱く所以です。その点、貴兄がムハマッドアリとその世界観の相違にも関わらず彼の偉大さに素直に感動するのとは大違いではないでしょうか。

なおこの点に関しては先日江藤淳伝を書き上げた平山周吉君及び小生の友人で且つ一応江藤門下ということになっている慶大教授福田和也君にもはっきり伝えてあります。

話が多分逸れましたが小生の真意が貴兄に伝わることになれば幸甚の至りです。

これを機会に今後共よろしく。

草々 康芳夫