戦後の文学界に衝撃 マゾの奇書「家畜人ヤプー」 「覆面作家は高裁判事」東大卒のエリート−2
この小説の作者を東京高裁の倉田氏(民事八部総括判事)と断定したのは、雑誌「諸君」の「家畜人ヤプーの覆面作家は東京高裁倉田卓次判事」と題する作家森下小太郎氏による記事。名指しされた倉田卓次判事は、昭和二十二年東大法学部卒で、交通事故裁判の権威。著作に「交通事故賠償の諸相」「民事交通訴訟の課題」などがある。
同誌の記事によると、小説は倉田氏が長野家地裁飯田支部の判事補時代(三十年から三十四年)に執筆したとされ、かつて「沼正三」に直接会ったことがある森下氏か先月二日、東京高裁の法廷で倉田判事を見て「倉田氏が沼正三に間違いないと確認した」としているほか、倉田判事が長野家裁飯田支部時代に仕えた職員の証言で”証拠”を補強している。
同誌の記事が正しいとすると、戦後文学界の一つのナゾに解答が出されると同時に、マゾヒズムと「公正廉潔な裁判官」との奇妙な取り合わせが大きな話題となりそうだ。
「家畜人ヤプーの筆者は、倉田東京高裁判事」と名指しされたことについて、倉田氏夫人の智子さんは、東京都港区元麻布一丁目の自宅で、「主人は血圧が高くてお会いできない。十日ほど前、『諸君』の編集長という人が来て、この話を主人にした。主人は否定していたので、私はすっかり忘れていたが、きょう『諸君』に掲載されているのを知ってびっくりした。主人は執筆したこともないし、森下さんという人も知らないと全面否定している。今後のことは、上司と相談して対処したいといっている」と話している。
記事の中で森下氏からの手紙をたびたび受け取り、倉田氏に渡して中継ぎ役をしていたとされるAさんは「手紙がきたこがあったかもしれないが、はっきり覚えていない。記憶があいまいだが、うそとはいいきれない。しかし、手紙を倉田判事に渡したかどうかについては覚えていない」といっている。
・・・了