<薔薇画廊>ハンス・ベルメール・・・解説 桑原住雄(3)
ベルメールの作品に出合った時に、恐らく総ての人が抱くであろう、或る名状しがたい郷愁はどこから来るのであろうか。飜転しながら、とめどなく展開し、また暗転を繰りかえしながら一点に凝集されたかと思うと、その奥から妖しい花びらのようなヒダが氈動しながら広がってゆく世界---実は、この余りにも生体的な、そして極めて有機的なイメージは、ぼくたち自身が生まれながらに体内に内包している光景の投影にほかならない。表皮から皮膚粘膜へ、そして内腔から内臓へと侵入して行く幻視の触手は、あくなき侵犯を続けながら、ついには再び表皮に還り、毛髪体毛の尖端の一点に辿りつく。そしてそこからまた内臓へ還るために体内遍歴を繰りかえすのである。つまり、ここにあるのは終末のない、果てしない体内侵犯と体内遍歴でありその無限飜転という円環運動を背後から遠隔操縦しているのは、ぼくたちが、その多少の強弱の差こそあれ、みな等しく所有している生命根源---性欲にほかならない。
・・・次号更新に続く