世界的カーレースに挑む
伝説の呼び屋、神彰の下で虚業家のスタートを切ったものの、会社の倒産により数年で地獄の淵をのぞくことになった私が復活を賭けてアートライフの最初の仕事として選んだのは、世界的力ーレース、インディ500であった。モータリゼーションの波が急速に押し寄せつつあった日本にあって、日本人はまだ本格的なカーレースといったものを生で見たことがない。
富士スピードウェイで世界のトッブレーサーとトップマシーンを勢ぞろいさせて走らせたら、きっと話題になるだろう。時速三〇〇キロ超で走行するマシーンの轟音と迫力に日本人は度肝を抜かれるに違いない。そう考えたのだ。
実は神も私も運転免許を持っていない。カーレースはおろか車に関してズブの素人である。しかもこの業界には人脈らしい人脈もない。しかし興行の世界においては素人だから危険であるとか、無謀であるということにはまったくならないのだ。知識や人脈がなければできないという次元で興行師は動いてはいないのである。
むしろ知識などが面白い発想や奇抜な閃きを阻害してしまうことは少なくないと思う。知識がへんにあると固定した発想の枠に入り、往々にして自由な発想を失ってしまったりする。
興行師の仕事は、絶えず大衆の目線に立たないといけない。数万、数十万という大衆の目を一瞬にして釘づけにするようなダイナミックな想像力が必要なのだ。しかし、知識やこだわりが強過ぎるとつい、こんな面白いものがあるんだよという上からの目線になってしまったりする。そうなれば大衆がそっぽを向いてしまうことになりかねない。
・・・以上、虚人のすすめ―無秩序(カオス)を生き抜け (集英社新書)より抜粋