ロス五輪に割り込んだ”騒動師”康氏:スポーツニッポン(昭和57年8月4日)
人生論に惑わせる人々
権威をぶち壊し、社会を撃ち抜く。巨きな力が抱える問題や病理に敢然と立ち向かい、ときに世間の常識をユーモアをもって引っくり返すようなことをするのが出版などの活字メディアの一つの使命ではないか。それは古典的でステレオタイプともいえる姿勢だが、同時にまた永遠に不変のものであるべきはずだ。
少なくとも私はそう思って出版の仕事を当時やっていた。
ところが昨今はそんな骨を感じさせるものがめっきり減ったように感じる。成功スキルを磨くといったビジネス本や心の癒しをテーマにした安直な人生論ばかりが隆盛しているのを見ると、人の作りというものが薄くて軟になったなと思ってしまう。
哲学でも思想でも宗教でも人生論という側面を持っている。人生論そのものはけっこうだが、それがどういう方向性を持っているか、どれだけの深度を持っているか、そしてどれだけ自分の頭で考えさせる問題を提起しているか、それによってクオリティがまったく違ってくるのだ。
・・・以上、虚人のすすめ―無秩序(カオス)を生き抜け (集英社新書)より抜粋