このハイチが
君が虎と対決できる
世界で唯一の場所だッ!
変人偏屈列伝:このハイチが君が虎の対決できる世界で唯一の場所だッ!
虎と空手武道家の死闘ショー(13):山元の頬が引きつる
ようやく地上に降ろされたトラは何十時間も移送されてきたので腹が減っている。倉庫に移されひと息つくと、バケツ何杯もの水とフローズンのチキンを数十羽、ぺろりと平らげてしまった。
しばらくするとホテルから、「対戦相手」をひと目見ようと山元師範がタクシーで駆けつけてきた。丸木のような太い腕を組みながら、檻の中の宿敵をじっと冷静に見つめていた山元だったが、ある瞬間、彼の頬がピクっと引きつり、そのいかつい顔から血の気がみるみるうちにうせてきたのを私は見のがさなかった。ガツガツとチキンをむさぼり食べる姿を茫然と見つめていた彼の眼を釘づけにしたのは、檻の中のトラの魔術師のような身のこなしだった。
ほぼ身体いっぱいの小さな檻に入っていたトラが、こちら側に頭を向けてはチキンや水をガブガブ飲みこんでいた。しかしほぼ全部食いつくした瞬間、クルッと尻尾と頭を入れかえてしまったのだ。これは眼にもとまらぬ早業だった。まさにマジックショーのような光景だ。この身のこなし方は猫より柔らかい。想像を絶するアクロバットのような柔軟性だ。見ていた私や東映のカメラマンら全員も唖然としてしまった。これには山元守も腰を抜かしてしまった。
おそらく彼の作戦は、ドーベルマンのように直線的に向かってくるトラの眉間を捨て身の正拳で撃ちぬくつもりだったにちがいない。しかし、この魔法のような姿を見た瞬間、山元師範は地獄へ突きおとされたような心理状態におちいったのだ。
この瞬間を境に、山元師範の表情ははっきりと変わった。目つきや言動、すべてが別人のようになってしまったのだ。翌日からの彼は毎日、私のところに来て「スナイパーの腕はたしかか、何人つくのだ」とか「銃は本物か」など、やたら同じ質問を繰りかえしてくる。あきらかに警戒心と不安が彼を襲い襲いはじめたのだ。それまで豪快で筋肉のかたまりの強靱な大男、といった風貌が日に日にまるでお湯をかけた氷のように縮んでいく、そんな毎日だった。
・・・虎と空手武道家の死闘ショー:続く