『勝手にしろ!』---ベンガルのトラの嘆き:東京新聞(昭和52年2月9日)

康氏の企画した死闘ショーは一月八日付「こちら特報部」でご紹介したように、二月五日ハイチの首都ポルトープランスのサッカー場に二万八千人の観客を集め、テレビ中継のカメラの前で行われることになっていた。

『勝手にしろ!』---ベンガルのトラの嘆き:東京新聞(昭和52年2月9日)

虎と空手武道家の死闘ショー(18):ブリジッド・バルドーの介入

この「空手家 VS. トラ」の世紀の死闘が世界中のマスコミに注目されはじめた頃から、ある人物が、「これは好ましからざる興行だ」と中止を画策しはじめたのだ。その人物とは、フランスの大女優で世界動物愛護協会会長、ブリジッド・バルドーだった。

大女優ブリジツド・バルドーはその華麗な人脈をフルに利用し、この試合を中止に追いこむように根まわしし、ハイチ政府に圧力をかけていたのだ。ハイチとアメリカの関係を盾に、アメリカ経由で強硬な圧力をかけたのだ。おそらくアメリカの大物ロビイストなどもかつぎだしたのだろう。当時のカーター米大統領までもを動かし、この試合をもしハイチで行ったらアメリカからハイチへの経済援助を打ち切る、とまで脅しをかけてきたのだ。

その当時、ハイチへの最大援助国はアメリカだった。年間五〇億ドルから一〇〇億ドルの経済援助を受けていたのである。その援助を打ち切られればどうなるか。

苦笑いを浮かべながらその高官は、「ミスター康、ハイチ政府としては日本政府がアメリカの代わりに年間五〇億ドルから一〇〇億ドルの援助をしてくれたら、約束どおり試合を許可しますよ。日本政府にかけあってくれますか?」と私に言った。さすがに私も返す言葉を失ってしまった。それにしても「空手家 VS. トラ」の世紀の死闘が、国際的問題にまで発展するとは思いもよらなかった。いったいどんな関係性があるのか知るよしもないが、私が黙々とハイチで試合の準備を進めている間に、想像以上に国際的な注目を浴びていたのである。

・・・虎と空手武道家の死闘ショー:続く