『血と薔薇』1969.No4:エロティシズムと衝撃の綜合研究誌

『血と薔薇』1969.No4
エロティシズムと衝撃の綜合研究誌

小説『少女地獄』より火星の女(夢野久作)・・・連載1

-解説-

夢野久作『少女地獄』(昭和11年、黒白書房)から「火星の女」一篇を複刻する。初版のままである。「少女地獄」という作品は存在しない。「何でも無い」「殺人リレー」「火星の女」三作の総称であって、中島河太郎作制の年表によると「殺人リレー」は昭和九年十月『新青年』に発表され、他の二篇は黒白書房版単行本のための書下ろしである。三作ともにこれまで複刻・ないしは他の文学選集の一篇に収録されたことはなく、したがって本作品「火星の女」は三三年ぶりに再登場するわけである。

「何でもない」は看護婦、「殺人リレー」はバスの女車掌、「火星の女」は女学生を主人公にしたもの。三作ともに、清浄な少女がかすかな心のおののきから、日常性の深淵をのぞき、錘揉み状に地獄への道をすすむという結構を示したもので、弱者の立場から一直線にこの世の破壊へと駈けぬける夢野久作の小説作法をよくしめした作品群である。『少女地獄』を、「あやかしの鼓」「押絵の奇蹟」「氷の涯」などの諸作のレベルに達した傑作と評価することに無理はない。

国枝史郎『神州纐纈城』、小栗虫太郎『人外魔境』など、昭和初年、大衆文学成立期に登場し沈下していった一群の作家・作品群の複刻がいまおこなわれている。夢野久作再評価の気運も急である。久作については、いま、三一書房から夢野久作全集全七巻の刊行が開始されており、われわれがこの巨鯨の浮上を見る日がきたのであるが、これらの事象の意味するものについては多くのことばを費さずにおこう。本篇を味読されればおのずとあきらかになることとおもう。

(文責・編集部)

・・・次号更新【小説『少女地獄』より火星の女(夢野久作)・・・連載2】に続く