風俗奇譚(昭和45年7月臨時増刊号)小説 沼正三【著:嵐山光三郎】
SMと右翼の襲撃:1
私は早速、『家畜人ヤプー』出版記念パーティーをくわだてた。当時銀座の高級クラブ「レッドミナー」を借りきってSMショーのような大イベントを開催したのだ。当時、まだSMなどという言葉も一般的には浸透していない時代だ。パーティーの後も引きつづいて放尿や脱糞ショーを繰りひろげた。これがセンセーションにならないわけがない。演出はその後パルコから「ビックリハウス」という雑誌を創刊した萩原朔美。朔太郎の孫で、いまは多摩美大の教授である。暗黒舞踏の「天井桟敷」のメンバーをアルバイトに雇ってマゾのふりをさせたのだ。
そして間もなく、新宿御苑前のビルに「家畜人ヤプークラブ」をオープンさせた。すると銀座のホステスが客を連れて連日おしかけ、酔っ払って彼らを本気で殴ったり蹴ったり、自分の股間を舐めさせたりした。彼女たちにも本能的にSMへの願望があるのだろう。
しかしアルバイトの劇団員たちはたまらない。当時では高給の日当二〇〇〇円も「これじゃ割りがあわない」と怒りだしてしまった。楽屋に帰ってホステスたちをつかまえて「このやろー」と殴りだしてしまったのだ。警察にも何度も呼びだしを食らったりしたが、この店は大繁盛だった。医者や弁護士、遠藤周作や石坂浩二などの数多くの文化人が毎晩大喜びでクラブに通いつめていた。まさにいまのSMクラブ第一号、だったのだ。
・・・SMと右翼の襲撃(虚人魁人 康芳夫 国際暗黒プロデューサーの自伝/康芳夫(著)より抜粋):続く