『血と薔薇』1969.No4:エロティシズムと衝撃の綜合研究誌

小説『少女地獄』より火星の女(夢野久作)・・・連載17

これは傴僂の川村さんが、星雲先生の口真似をなすったのを、私がまた口真似を致したお話ですが、この話を聞いた川村書記さんは、校長先生の腕前のスゴイのに今更のように感心してしまわれました。そうして案外に寄付が集まり過ぎたお蔭で、銅像が立像になりそうになって来たので、すっかり面喰って弱っておられる校長先生の味方になる決心をされました。

・・・・・・この頃では相当の人の手にかけて銅像を建てるとなると、胸像一つでも五千円や一万円はかかる。立像になれば二、三万円ぐらいは費用を見積らなければならない事。だから胸像だけでもまだまだ寄付金額が足りない・・・・・・。

と言ったような事なぞをコソコソと説明してまわって、とうとう立像説を打毀し、もう出来上っている胸像を使って集まっている五千何百円の大部分を二人で山分けにする計画を完成して、校長先生をホッとおさせになったのでした。そのあげくに川村さんはあの廃屋の中でこう言われました。

「そこで来る三月の二十二日に今度の卒業生の謝恩会があります。その時に優等生に代表させて寄付金の金額を先生に捧げさせます。そこでその金を今一度、私にお預けになって、銅像建設に関する一切の事務を川村書記に任せると一言仰言って下さい。そこで私が壇上に上って、ちょうど有名な朝倉星雲先生が郷土の出身だから、製作方をお頼みする事にした。星雲先生は喜んで引き受けられたから、遠からず出来上って来るはずとか何とか報告して拍手させてしまえばもうこっちのものです。細工は粒々仕上げを御覧じです」

・・・次号更新【小説『少女地獄』より火星の女(夢野久作)・・・連載18】に続く