小説『少女地獄』より火星の女(夢野久作)・・・連載10

伝説の雑誌『血と薔薇』アーカイブス:小説『少女地獄』より火星の女(夢野久作)

『血と薔薇』1969.No4 エロティシズムと衝撃の綜合研究誌

森栖校長先生

火星の女より

私は嬉しくて嬉しくて仕様がありません。かうして校長先生に復讐する事が出来るのですから・・・・・・。

私がホンタウに火星の女でしたら、それこそ天の上まで飛上って喜ぶかも知れません。

私の死体は多分、誰ともわからない真黒焦になって発見されるでせう。さうして新聞に大騒ぎをして書かれるでしせう。

私は、私のお友達に頼みました。

『私がこの手紙を書き始めました二十四日の午後からキッチリ一週間目の三十一日の夕方に、此手紙を速達で校長先生の処へ出して頂戴ね』

・・・・・・と・・・・・・さうして校長先生が、私の黒焦屍体を御覧になっても・・・・・・さうして此の手紙をお読みになっても反省なさらずに、知らん顔をなすったり、平気で誤魔化して行こうとしたりなさる御模様がなかつたら、念の為に書いて置きました、ほかの一通を警察署へ出して頂きます。さうして、それでも此の事件の真相が世間へ発表されず、校長先生と棒組んで、浅ましい恥知らずな事をして居られる方々が、校長先生と御一緒に此事件を暗から暗に葬らうとしてお出でになる御模様がわかりましたならば、そんな関係 新聞記事を封じ込んだ、これと同じモウ一通のコピーを抜からない様に或る方面へ廻はして、ズット遅れてから発表して下さる様にお願ひして在るのです。私の黒焦屍体に絡はる校長先生の責任を、どこまでも明らかにする手順がチャント付いて居るのです。その私のお友達の方は頭のいい、決心の強いお方ですから、此の最後の一通を押えられるやうなヘマな事は決してなさらないでせう。

私は、私の一生涯を、無駄に黒焦にし度くは御座いません。

私は、校長先生と御一緒に、腐敗、堕落して居ります現代の自分勝手な、利己主義一点張の男性の方々に、一つの頓服薬として「火星の女の黒焼」を一服づつ差上げ度いのです。黒焼流行の折柄ですから万更、利き目の無い事は御座いますまい。

・・・次号更新【小説『少女地獄』より火星の女(夢野久作)・・・連載11】に続く