『血と薔薇』1969.No4:エロティシズムと衝撃の綜合研究誌

小説『少女地獄』より火星の女(夢野久作)・・・連載18

しかし私があの廃屋の中で聞いたお話は、そんなような仲のよいお話ばかりではありませんでした。時にはお二人ともかなり強い声で言い争われた事が、二度や三度ではありませんでした。そうしてそのお蔭で前に書きましたような、この学校のいろいろな秘密がだんだんとわかって来たのですが、しかしその揚句はいつも校長先生の方が折れて、仲直りをなさるのでした。

「よしよし。ようわかった。帳面の責任は結局、君一人の責任になる訳だからね。無理は言わんよ。・・・・・・いや。わかったわかった。わかったよ・・・・・・。それじゃこれから二人で仲直りに、面白い処へ行こうか。あの温泉ホテルの三階なら、誰にも見つからないぜ君・・・・・・」

「イヤ。もう今日は遅いですからモット近い処にしましょうや」

「なあにタクシーで飛ばせば訳はないよ。近い処はお互いの顔を知っとるからいかん。温泉ホテルの三階がええ。君はあの妓を連れて来たまえ。自由に享楽の出来るステキな処だぜ。知事や県視学も内々でチョイチョイ来るよ。吾輩の新発見なんだ」

「ヘエッ。そんなに贅沢な処ですか」

「贅沢にも何にもスッカリ南洋式になっている、享楽の豪華版なんだ。勘定は受持つから是非彼女を引張って来たまえ」

「ヘヘヘ。恐れ入ります」

「イヤ。彼女は面白いよ。だいぶ変っているよ。僕も今夜はモット若いのを連れて行く」

と言うようなお話も、何かの因縁のように、不思議と私の耳の底に残っておりました。

そのようなお話を取集めて考えてみますと、校長先生は、御自分の名誉と地位を利用して、学校をお金儲けの道具に使ってお出でになるのでした。そうして、そんなようなお金を使って、どこか秘密の場所で、お友達を集めて遊んでお出でになるのでした。

・・・次号更新【小説『少女地獄』より火星の女(夢野久作)・・・連載19】に続く