『血と薔薇』1969.No4:エロティシズムと衝撃の綜合研究誌

『血と薔薇』1969.No4
エロティシズムと衝撃の綜合研究誌

小説『少女地獄』より火星の女(夢野久作)・・・連載2

火星の女

県立高女の怪事

ミス黒焦事件
噂は噂を生んで迷宮へ

本日記事解禁

去る三月二十六日午前二時ごろ、市内大通六町目、県立高等女学校内、運動場の一隅に在る物置の廃屋より発火し、折柄も烈風に煽られ大事に到らむとする処を、市消防署長以下の敏速なる活躍により、同廃屋を全焼したるのみにて校舎には何等の損害なく消止め、一同安堵の胸を撫下した事は既報の通りである。然るに其れから間も無い二十六日の早暁に到り、その焼跡から、男女の区別さえ鑑別出来ない真黒焦の死体が発掘された為、又々大騒ぎとなった事実がある。しかも該死体を大学に於て解剖に附した結果、二十歳前後の少女の死体にして、特に腰部の燃焼十分なるやう燃料を配置たる形跡あり。その結果、警察側にては色情関係の殺人放火事件と見込を付け、容易ならぬ事件と認め、右に関する記事の掲載を差止め、極度の緊張裡に厳重なる調査を開始したが、爾後一週間に到るも犯人は勿論、当該死体の身元すら判明せず。噂は噂を生んで既に迷宮入りを傳えられ、必死の努力を続行中なる司法当局の威信さえも疑はれむとする状態に立到っていたが、其後、当局に於て、動かすべからざる重大な端緒を掴んだ証差と考へられ、従って右事件の真相が社会に公表されるのも遠い将来では無いと信じ得べき理由がある。

・・・次号更新【小説『少女地獄』より火星の女(夢野久作)・・・連載3】に続く