レフェリー・アリ、呼び屋・康氏・・・役者ぞろい!!:東京中日スポーツ(昭和54年1月26日)

レフェリー・アリ、呼び屋・康氏・・・役者ぞろい!!:東京中日スポーツ(昭和54年1月26日)

目には目を 非常識には非常識を

私が仕掛けた興行の数々。大物ミュージシャンやボクシング界のスーパースター、ネッシー、オリバー君、アラビア大魔法団といった連中はみな世間の常識の外にいる存在だ。

だから彼らの相手をするには、おのずと「非常識な力」が強く求められることになる。

たとえば、ソニー・ロリンズやアート・ブレイキーらのジャズミュージシャンと麻薬は元々切っても切れない関係にある。特にヘロインは一九五〇年代、一九六〇年代のジャズシーンを大きく動かした要因でもあるのだ。ヘロインによってもたらされるある種の精神のバイブレーションはジャズのスイング感とひじょうに合うらしいのである。ただ、ヘロインは中毒性が高く、切れると禁断症状が出る。演奏を成功させるにはどうしても薬が必要だったのだろう。

私は別に麻薬解放論者でもなければポジティブな賛同者でもない。お酒があれば十分だし、体質的にも受けつけないので自分からやることはまったくない。しかし、麻薬を十把一絡げにくくって断罪する風潮はおかしいと思う。たとえばテレビや雑誌でさんざん広告が打たれているアルコールだってれっきとした麻薬である。現にイスラム圏ではアルコールはご法度である。日本ではアルコールは麻薬というくくりに入れられていないだけで、中東などの文化圏に行けばりっぱな麻薬なのである。

文化や社会制度が変われば、麻薬に対する認識は違ってくるのだ。アメリカでは過去に禁酒法という法律もあった。日本で大麻が違法になったのも実は戦後、GHQが押し付けた法律であったらしい。しかし、そのアメリカも一部の州、たとえばカリフォルニア州などでは財政の赤字を赤字を補う一案として、大麻解禁が現在州議会の議題にのぼっている。

覚醒剤は今、日本では暴力団の資金源となっていることもあってひじょうに悪い麻薬であるとされている。しかし、戦中はむしろヒロポンと称して国家が生産性を上げるため奨励していたぐらいである。

つまり麻薬か否かといったものはきわめて恣意的なものなのに、麻薬というラベルが付いていれば、日本人はそれだけで思考停止になってしまうのだ。そして麻薬はこの上なく非道徳で非人間的なものであると断罪するのである。

・・・以上、虚人のすすめ―無秩序(カオス)を生き抜け (集英社新書)より抜粋