沼正三著『家畜人ヤプー』を出版したローレンス・ヴィアレ氏に聞く

「家畜人ヤプー完結版(ミリオン出版)」より---沼正三・・・8

二割は残ったわけだが、とにかく、Occupied Japan の時代に、日本人であることを恥じた敗戦国男性の自虐的妄想の壺中天、戦勝国の金髪女性を理想化して描いた美しく厳しい『大英宇宙帝国』、女性上位の晴朗な白人の楽園だが、他面仮借なく天皇を裁き、日本民族を極限まで貶める<差別の帝国>のアウトラインは、ある程度読者に伝え得たかと思う。人権平等の幻想下の現在、差別は各種の表現禁忌(排泄、セックス、畸形、賎民、天皇制等)に通底するが、記述に当たっては社会的タブーはいっさい無視した(性交場面が皆無なのは、タブーの故ではない)。マイナスのカードを集めることでプラスに変えようという狙いが、奏功したか否かは心許ないが。

逆ユートピア(浄土地獄)イース。「美しく厳しい」と書いたが、この<浄土>の美しさは「汚ないもの、醜いもの」を<地獄>に押し付ける厳しさと一体裏腹なのである。被虐愛好や崇物馴致(特に汚物の物神化)といった愛情の畸形、神聖冒涜や祖国呪詛といった精神の崖っ縁、それらに嫌悪ないし恐怖しか感じない素朴な心性の持ち主と健全な未成年者には、この本は毒だろう、読んでほしくもない(まあ、ポスト・フェミニズムのヤングレディー---温良貞淑な夫に家事育児を任せ、自分は外泊して金髪青年に抱かれている某人気歌手の女上位の生き方に喝釆する女性たち---は、白人志向の<脱日本民族>心理からイース貴婦人に容易に同化し、平気でヤプーを使役するだろうから、別だけれど)。---本屋の店先でこの「あとがき」を覗く人が己れの嫌悪反応度を測定したければ、生髪絨毯(ライブ・カーペット)(第四七章1)と尻頭畜(コケシ)(第四七章2)のイメージくらいが手頃かと思う。

・・・次号更新【「家畜人ヤプー完結版(ミリオン出版)」より---沼正三】に続く

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