虚人は本能の強さで生きる
このように興行という虚業の世界は一枚底板をめくると地獄が顔をのぞかせているようなところである。当然、神経がタフでないとやっていけない仕事である。だから真の虚業家は血と汗と胆の匂いがする。
ところで、タフというものは、頭でそうなろうと思ってもダメなものである。精神力で耐えるとか頑張るというのは最終的には脆いものなのだ。
では本当にタフであるとはどういうことなのだろうか。私は本能的な行動とそれに伴う強さというものが真の意味での強さではないかと思っている。それは凡百の屍理屈を超えたところにある。
たとえばそれはこんな例を持ち出すとわかりやすいかもしれない。
最近、自衛隊の元航空幕僚長が書いた集団的自衛権にまつわる論文が論議を呼んだが、私に言わせればそもそも自衛権の「権」なるものがちゃんちゃらおかしい。
「自衛権」と言ったとたん、それはいわゆる法理論、法哲学的観念でとらえた一つの「権利」に過ぎないのだ。
もし外国からミサイルが飛んできたら、日本国政府は権利にもとづいてそれに対応するのだろうか。そんなおかしなことはないだろう。国会で権利について考え、議論しているうちにあっという間にミサイルにやられてしまいかねない。敵に攻撃されそうになれば観念のレベルではなく防衛本能というレベルで対応すべきなのだ。これは自衛権という権利にまつわる左派、右派による論議や国際法ならびに憲法を超越した次元の問題である。
・・・以上、虚人のすすめ―無秩序(カオス)を生き抜け （集英社新書）より抜粋
