猪木・アリ戦

猪木・アリ戦(4):アリの深い警戒心と猪木の純粋な動機・・・1

リングの中を無駄なく飛びまわる、すばやい動きとその技の多彩さにアリは驚いてしまった。いままで思いえがいていた「プロレスショー」とはあきらかにちがう猪木の動きに、眼を見はってしまった。これはほんとうに強いぞ、そう腹の中で捻ってしまったのだ。当時ロスのビバリーヒルズホテルで、マネージャーと彼と一緒に食事をしている時、彼は腹の底から声をしぼりだして私に言った。「どこまでやつは強いんだ。ばけものだ」。

以来、アリは猪木に対して警戒心さえ持つようになってしまった。そして、いったんはこのプランはやめよう、ということまで言いだした。真剣に組まれたら、いくらアリとはいえども勝ち目はない、そう思ったのだ。しかし、私や弁護士のロバート・アラムの説得で、独自のルールをしっかり作ればやってもよい、と再び軟化しはじめた。

アントニオ猪木は純粋に正当なファイトしか望んでいない。だからフィックスファイトはできない。ならば、ルールでがんじがらめに封じこめよう、という作戦だ。そんな規制の中で猪木が闘うには、あの体勢が精いっぱいの戦法だったのかもしれない。

・・・猪木・アリ戦:続く