滅亡のシナリオ(10):二◯世紀最大の謎---ヒトラーの不可解な戦略

プロデュース(康芳夫)
ノストラダムス(原作)
ヒトラー(演出)
川尻徹(著)精神科医 川尻徹

滅亡のシナリオ(10)

二◯世紀最大の謎---ヒトラーの不可解な戦略

歴史を研究しだして、まず博士がぶち当たったのが、大戦にいたるまでのドイツの不可思議な行動であった。第一次大戦で巨額の賠償をせまられ疲弊しきったドイツは、ヒトラーが政権を手中にするとメキメキ復興し、きわめて豊かな国になった。それなのに、ふたたび恐るべき消耗を伴うことを知りつつ、世界を敵にして二度目の戦争を挑んだのはなぜか。

「さらに、この大戦でヒトラーのとった行動には謎が多い。誰もが挙げるのが、一九四一年十二月一一日にアメリカに対して宣戦布告した”愚挙”だ。この時、ドイツはソ連軍と東部戦線でガップリと組みあっていた。しかもイギリスはまだ屈伏していない。ソ連とイギリスという強敵を向こうに回しながら、わざわざ大国アメリカを敵に回して、どんな益があるというのか、開戦に踏みきった日本と米英を戦わせておけば、ドイツは悠々と漁夫の利を得れたはずだ。

その前年の一九四◯年六月四日の”ダンケルクの奇蹟”も、歴史研究者たちを悩ませている。怒濤のごとくフランス領土を席捲したドイツ機甲師団が、英仏連合軍をドーバー海峡に面したダンケルクまで追いつめた時、ヒトラーは突如、前進停止の命令を出した。このため、イギリス軍とフランス軍は英国本土へ逃れることができた。この時、情容赦なく叩き潰しておけば、イギリスは”バトル・オブ・ブリテン”を戦い抜くことができず、遠からずドイツの軍門に降ったに違いない。これもまた、ヒトラーの戦略をめぐる奇怪な謎ではないか。

調べていけば、まだまだある。ロンメルのアフリカ軍団を支援しておけば、スエズ運河まで完全に手中に落ちて、連合軍は苦境に立たされるところだったのに、それをせず、逆にロンメルを呼び戻してアフリカ軍団を見殺しにしてしまった。このように、ヒトラーのやることなすこと、まるで、わざと負けたがっているように見えるほど理屈に合わないことをやっている。後世の歴史家は、そのことでいまだに頭を悩ましているのだ。

中田君。ヒトラーは、どう見ても愚鈍な人物ではない。IQ(知能指数)は二◯◯以上あったに違いない。その彼が、どうしてかくも愚劣な戦争を遂行したのか・・・・・・」

このように大戦の経過を詳細に調べていくうち、博士はある信念を抱くにいたる。

「この戦争には、隠された意図があったに違いない!ヒトラーは勝利とは別の、ある目的のために第二次世界大戦を起こしたのだ」

中田は思わず身を乗り出した。

「その目的とは?」

「それは、思想を統一し国民の集中力を高めることにより、急激にテクノロジーを発展させるためさ。ヒトラーはドイツ国家を犠牲にしても、それをやり遂げる気だったんだ。そして実際にやり遂げた。

考えてもみたまえ。あの大戦の間、どれだけ画期的発明が生まれたか。ジェット機、ミサイル、レーダー、生物化学兵器、コンピュータ、原子爆弾・・・・・・」

「しかし・・・・・・、それは目的ではなく、戦争の必然的結果として得られたものではないのですか?」

「違う」

川尻博士は断言した。

「それこそがヒトラーの目的だったのだ」

「いったい、何のために?」

また意外な答えが返ってきた。

「神の王国を建設するためだ」

・・・・・・・・・次号更新【少年時代に体験した”神の啓示”】に続く