ニセ署名はゴミ箱ゆき(1)
あなたが今もって『ヤプー』の作者だと名乗りをあげない理由の一つに、右翼を刺激するのを怖れてだという説がある。
たしかに、単行本が世に出た当時、大和民族が西洋人の家畜奴隷にされるという内容が皇室誹謗の印象を与え、版元である都市出版社に右翼が乱入する騒ぎもあった。
余談になるが、このときプロモーター康芳夫氏(当時、同社顧問)は、再度の乱入に備えて刑事を張り込ませ、首尾よく捕まえた右翼と示談の結果、十万円也をせしめた。担当の刑事が「右翼からゼニとったのは、あんたが初めてじゃないか」といったとかいう笑い話もある。
ともあれ、昔ならいずれは親任官にもなろうかというあなたが、皇室に気兼ねし、右翼を怖れる気持ちは理解できる。しかし、そうやってあなたが危険を回避しようとすればするほど、あなたの盟友たる天野氏は窮地に立つことにはならないか。あなたと天野氏との契約には、かかる危険負担まで代行することになっていたのか。
そもそもあなたは、代理人・天野氏にすべてまかせすぎた。言葉をかえるなら、『ヤプー』を世に問うて以後、天野氏の行状について、あまりに管理不行届きだったのである。そのいい例が、天野氏の書き散らした「沼正三」の署名(サイン)だ。
・・・次号更新【『諸君!』昭和57年(1982年)12月号:「家畜人ヤプー」事件 第二弾!倉田卓次判事への公開質問状:森下小太郎・・・連載28】に続く