「家畜人ヤプー」贓物譚(ぞうぶつたん):『潮』昭和58年(1983年)1月号

森下君の根拠の曖昧さ・・・・・・(5)

私の代理人卑下意識からする沼正三本人実在の擬制化が森下君の錯覚と競合し、虚構ながら独り歩きを始めて、見当違いのK氏に累を及ぼした。それが今回の事件である。K氏は否定し、私が名乗った。どこにも不都合はないのである。本来、名乗ろうが名乗るまいが、無関係な第三者には余計なお節介ではないか。かつ『ヤプー』は市民権を得たと声高におっしゃるが、私はそうは思わない。形ではそう見えたにしろ、永久に市民権なき作品である。『ヤプー』に価値ありとせば、そこにこそ求めらるべきであろう。それに、いかな理由づけをしようと、私信やプライバシーの、為にする公開は、男子ならずとも、最も恥ずべき行為であり、それを煽り立てた『諸君!』のやり方は、言論の自由に泥を塗る、破廉恥行為の極みである。麻生保氏の素性をも、当人死亡をいいことに、ご遺族に断りなくすっぱ抜いたことへの怒りの声を、私は数多く耳にする(大岡昇平氏『成城だだよりII』『旅と腹立ち』『文学界』十二月号=をも参照)。---私は論争はしない。一度こっきり、あとはどうぞ、ご自由に。

(脱稿直後、矢牧君の訃報を佐々克明氏よりお知らせ頂く。追想雲の如く去来。ご冥福を祈る)

・・・【「家畜人ヤプー」贓物譚(ぞうぶつたん)・・・『潮』昭和58年(1983年)1月号より】・・・了