しだいに浮かび上がる”第四帝国”建設のシナリオ

『滅亡のシナリオ』:プロデュース(康芳夫)

プロデュース(康芳夫)
ノストラダムス(原作)
ヒトラー(演出)
川尻徹(著)精神科医 川尻徹

博士は、聖書の上にノストラダムスの予言詩集『諸世紀」を載せてみせた。

「いいかね。聖書に書かれた至福千年の王国へ至る方法のプログラムは、きわめて概略的なものだ。人類の指導者たらんとしたヒトラーは、もっと詳細なプログラムが必要だった。そうすると、ごく自然にノストラダムスの予言に到達する。聖書を読む人間なら、誰でもノストラダムス予言のことを知っていた。当然、ヒトラーも目を通していたに違いない。そうすると、この予言書こそ、神の王国を地球上に築くための詳密なプログラムだということが分かったはずだ。

『ヨハネの黙示録』とノストラダムスの予言を重ねてみると、驚くほど一致していることが分かる。たとえば予言詩集の第一◯章七四番の詩だ。

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大いなる七の数字が過ぎると
大殺戮が起こる
千年期からさほど離れていない時期に
埋葬された人々が墓から出てくるだろう
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この詩は、明らかにこの世の終末に最終戦争とも言うべき大変革が起き、やがて、”復活の日”がやってくることを予言している。このように、彼の予言詩はすべて、神の王国にいたるまでの過程を記述しているのだ。そして、これこそヒトラーが求めていたものなのだ。つまり、ノストラダムスの予言詩集こそ、神の王国を建設するための詳細なプログラムなのだ!」

川尻博士の目は爛々と輝きだした。

「ヒトラーは、それ以前に、この予言詩集の中に自分が登場してきていることも知っていたに違いない。たとえば、第五章二九番の”ヒスターに対し、イタリア共和国は怒るだろう”とか、第二章二四番には”大部分の陣営はヒスターに敵対せん”というように、ヒスター、イスターという名前がしばしば登場する。明らかにこれはヒトラーのことだ。

ヒトラーがそのことに気がついた時、どう思っただろうか。四〇〇年も前に死んだ予言者が、自分の将来について語っているのだよ。”神に選ばれた者”と思っていたヒトラーにしてみれば、ノストラダムスの予言は絶対に無視できない、いや、彼にとって唯一無二の指令書となったに違いない。つまり新約聖書と同等の、いわば”新・新約聖書”になったのではないだろうか。

そういう目で予言詩集を解釈していくうち、彼の胸の中に、彼なりのシナリオができあがっていったはずだ。それは、彼の考える神の王国、”第四帝国”を建設するためのシナリオだ」

ヒトラーとノストラダムス---二〇世紀の独裁者と一六世紀の予言者。この二人は、こうした推理の過程を経て、川尻博士の頭脳の中で結びつけられたのだ。

・・・・・・・・・次号更新【”ノストラダムス計画”---はたして証明できるのか?】に続く