天野哲夫は、『週刊文春』10月14日号で

康芳夫、沼正三(『家畜人ヤプー』原作者)を語る(3)

いずれにしても、「沼さんがOK なら連絡させます」ということで、彼は最後まで教えませんでした。それで結果的に沼さんの方から僕に連絡があったわけ。

それは、僕がこういう雑誌をやると。あとは澁澤龍彦を責任編集にすえるということもあったと思いますね。色んなことが考えられるけど、ちゃんとした雑誌をやろうとしていることと、実際に会って、そこで彼が僕を信用してくれたこと。そこで信用できなければ、すべておしまいだった。たまたまそこで僕は信用を得た。その時沼さんは極度の躁状態で、正常なコミュニケーションをとるのが大変でした。

最初にヤプーを読んだ時は、日本人離れした想像力の持ち主だってことは思いましたね。「これは、たいへんな人だ」と、僕には宝石の原石を出す才能がありますから。小説は、一つには白人対黄色人種という、白人に対するコンプレックスと反感。だからある意味究めてナショナリスティックな小説であるし、ある意味日本人が日本人を徹底的に批判した小説だよね。

そういう意味を含めて、多少オーバーな言い方をすれば、文化人類学的にもきわめて面白い小説だと思いました。

そして当然一方では、反天皇制文学の極北ですね。文芸評論家の渡部直己君が『反天皇制文学』論を書いた時、『家畜人ヤプー』を故意か偶然か外したので本人を厳しくとっちめたことがある。だって、皇族が日本民族を代表して性的奴隷になっちゃう話だから、それは当然右翼にやられましたよ。都市出版社は襲撃されて、大変なことになった。

・・・『虚人と巨人 国際暗黒プロデューサー 康芳夫と各界の巨人たちの饗宴』より抜粋

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