<薔薇画廊>ハンス・ベルメール・・・解説 桑原住雄(2)
ハンス・ベルメールの世界ほど、こういったテクノロジー美術と対照的な世界はない。
第二次大戦後の戦後美術史が抽象表現主義からコンセプション・アートにいたるまで、目まぐるしく変転し、書きかえられてゆく中でシュールレアリストたちの一貫した姿勢ほどぼくたちの感動を呼びおこすものはなかったと言ってよい。彼等は己れの内奥の実存だけを見詰め、外部の激動から自らを遮断することによって彼等の透明なミクロ・コスモスを維持しつづけてきた。頑強きあまりない自己信仰であり、架空凝視であるが、フロイトによって開発された深層心理の渕に無限に下降してゆき、そこに見た反日常的な光景を仮借なく絵画化してゆく姿勢には、眼に見えないものを可視世界に還元するイコンの画僧にも似た性格が連想されるのである。
・・・次号更新に続く