右腕を高く掲げた"絶叫するヒトラー"
プロデュース(康芳夫)
ノストラダムス(原作)
ヒトラー(演出)
川尻徹(著)精神科医 川尻徹
「では、次の写真だ。こいつは一九四五年三月下旬、総統官邸の庭でヒトラー・ユーゲントを激励している時の写真だ。ほとんど最終段階のヒトラーだな。この頃のゲッベルスの日記を読むと、ヒトラーは『震える手、前かがみの姿、病人のような顔色』と書かれている。また、一月にゲッベルス邸を訪問した時は『老いさらばえ、全身がわなわな震え、片脚をひきずっていた。声はとぎれがちであった』とある」(写真⑥参照)
「たしかに元気がなさそうですね」
「手を後ろに組んでいるというのは、震えるのを押さえて、他人に気がつかれないように束縛している・・・・・・とも考えられるね。それにコートの皺からして、体に密着していない。頬がこけたように見えるのは、上の入れ歯を外しているのか、消耗しているのか。
とにかく、これは一時的に無理して、シャンと見せようと努力している姿だ。ひょっとしたらアンフェタミンのような覚醒剤で、一時的に賦活しているのかもしれない」
「へえー」
「次は、一九四四年七月、有名なヒトラー暗殺事件の現場を視察している時だ。隣りにいるのはクレーブス将軍。これを見て、まず何が目につくかね」(写真⑦)
「ヒトラーの軍帽がいやに斜めになってますね」
「そうだ。帽章の位置からして右へずれて、右側が下へ傾いている。これは頭部が右へ傾いているからだ。そして、本人の表情と後ろにいる側近の表情を見てみたまえ」
「本人は大まじめなのに、後ろではニヤニヤ笑ってますよ」
「おかしいだろう?このヒトラーは殺されるところだったので『私はいつ地獄に落とされるか分からない!』と激怒していたという。それなのに部下たちに緊張した雰囲気がないのは、不思議ではないか」
「はあ・・・・・・」
中田もだんだん分かってきた。
「これは、三九歳の時の写真だと思うが、こいつはどうだ?」(写真⑧)
「視線がおかしいですね。正面を向いているのに、右の瞳が外側に向いています。ひょっとしたら、斜視じゃないですか?」
「よし。そのとおりだ。これは右外斜視という。それと、一見精悍そうに見えるが腹や腿を見ると、太っているだろう?」
「そうですね。かなり腹が出てきてます」
「次は一九三二年の”絶叫するヒトラー”という写真だ(写真⑨)。この場合は、右腕に注意してほしい」
「どうしてですか」
「実は、ヒトラーは、一九二三年に起こしたミュンヘン一揆で、警察官の一斉射撃を受け、転倒して右関節脱臼を起こしている。それ以後、例のナチ式敬礼の時も、右手は水平よりやや上に挙げるくらいですましている。
しかも、どうやらうまく治療できずに、肩関節運動障害の後遺症に悩まされていたようなんだ。だから右腕は高く上がらない」
「でも、この写真ではずいぶん右腕が上がってますね。それも威勢よく」
「おかしいだろう?」
「そうですね・・・・・・」
・・・・・・・・・次号更新【実体ヒトラーにはない数々の特徴】に続く